文/鳥居美砂
沖縄に、ひと足早い春が訪れました。本島北部から桜の便りが届き、1月下旬から2月初旬はちょうど見頃とあって各地で桜まつりも開催されます。
世界遺産の今帰仁城跡(なきじんじょうあと)は、沖縄随一と称される桜の名所です。この時期、“日本一早い花見”を楽しみに多くの観光客が訪れます。
今回は、そんな桜の名所の途中に立ち寄れる、泡盛の蔵元を紹介します。その名もずばり『今帰仁酒造』、風光明媚なこの地に根ざし、丁寧な泡盛づくりをしています。
ご存知のとおり、泡盛は米を原料とした蒸留酒です。その製造方法は15世紀ごろ、シャム(現在のタイ)から伝えられました。現在も原料の米には、タイ米が使われています。
麹づくりには黒麹菌を用います。今では、黒麹菌を使った焼酎もありますが、黒麹菌の源流は沖縄、かつての琉球にあるのです。
そして、仕込み水には、その土地土地の水を用います。各蔵元の製造方法によって泡盛の味わいに違いが出るのはもちろんですが、この仕込み水も飲み口を大きく左右します。
麹に仕込み水、酵母を加えて発酵させ、蒸留します。蒸留後はタンクや甕(かめ)で熟成。この熟成によって、まろやかな泡盛になるのです。
『今帰仁酒造』の上里賢二(うえざと・けんじ)さんに話を伺いました。
「仕込み水には、乙羽山麓の天然水を使っています。この水は硬度が高いのが特徴です。この硬水に軟水をブレンドして、最終的にはミネラルウォーターの『エビアン』程度のやや硬水にして使っています。
軟水を使うとまろやかに、硬水だと華やかな香りの泡盛になります。うちの泡盛はすっきりとした飲み口で、豊かな香りが特徴です」
麹を作る際の「麹棚」にも、並々ならぬ“こだわり”があるといいます。
「ほとんどの蔵元ではステンレス製の麹棚を用いますが、うちでは木製のものを使っています。木の種類はヒノキです。三角屋根のようなその形から『三角棚』とも呼ばれます。
木製の麹棚は木が湿気を吸ってくれるので、麹の管理がしやすいメリットがあります。その日の天気に合わせ、扉の開き具合で調整します。大変なのは掃除です。麹が完成した後はブラシでしっかりこすって、キレイにしなくてはなりません。この作業に、手間と時間がかかるのです」
自然に寄り添ったこの作り方だと、麹のでき上がりもきっと違うのでしょう。上里さんの口調は自信にあふれていました。
蒸留すれば、すぐに泡盛のでき上がり、とはいきません。貯蔵や熟成という工程が欠かせないからです。上里さんはいいます。
「うちでは、新酒といえども1年間寝かせて、その後にアルコール度数を調整するために割り水をして、さらに少し寝かせてから出荷しています。
3年以上熟成させたものは「古酒(クース)」といいますが、まろやかな味わいが特徴です。中でも、『千年の響』は樫樽で貯蔵することで、じっくりと熟成が進み、古酒特有のまろやかな甘みと、ほのかな樫樽の香りを楽しんでいただけます。熟成の過程で、色もやや琥珀色を帯びています」
じつは、泡盛の出荷量は減少の一途をたどっていて、その未来は明るいとは言い難い状況です。泡盛業界や飲食店を挙げて、その打開策を探っているところです。この泡盛の危機を救うひとつが、古酒の存在です。
古酒の味わいは別格です。歳月だけがつくることのできる芳醇な香りと、深みを増した旨み。泡盛をあまり好きでないという方にもぜひ試してもらいたい、やわらかな口当たりです。
『今帰仁酒造』では、この古酒にとくに力を入れています。先ほどの樫樽での貯蔵も、伝統的な甕の熟成方法に加えて、古酒の幅を広げるためでしょう。
500リットル入る樽は1200本、同容量を持つ甕が324本、蔵元のなかで静かに時を重ねています。
希望すれば、蔵元の見学も可能です。繁忙期などには対応は難しいということですが、事前に電話を入れて予約をすると、平日の13時〜16時の間に、案内してくれます。
【今帰仁酒造】
■住所/沖縄県今帰仁村仲宗根500
■電話/0980—56—2611
■工場見学時間/13〜16時(要予約)
■定休日/土曜、日曜、祝日、年末年始
http://www.nakijinshuzo.jp/
文/鳥居美砂
ライター・消費生活アドバイザー。『サライ』記者として25年以上、取材にあたる。12年余りにわたって東京〜沖縄を往来する暮らしを続け、2015年末本拠地を沖縄・那覇に移す。沖縄に関する著書に『沖縄時間 美ら島暮らしは、でーじ上等』(PHP研究所)がある。