
ライターI(以下I):『豊臣兄弟!』制作統括の松川博敬さんのリモート取材会が設定されました。今回は、私が参加しています。制作統括の松川さんとは、どういう人かといいますと、子供のころに『独眼竜政宗』などの大河ドラマを視聴して歴史に開眼した方だそうです。NHKに入局後、初めて大河ドラマにかかわったのは2007年の『風林火山』というキャリアです。その後も『篤姫』や『おんな城主 直虎』といった大河ドラマなどの制作に携わってきた方です。『豊臣兄弟!』の制作発表は2024年の3月でした。その時から松川さんは、「子どもにも見てほしい大河」という主張をしていましたが、まずは、その思いを聞いてください。
「僕が最初に豊臣秀吉の伝記を手にしたのは小学校1年生か2年生ぐらいの時でした。親から買い与えられたポプラ社の『豊臣秀吉』で、本当に覚えるぐらい読んだという記憶があります。なんでそんなに熱中したかというと、戦国時代において、秀吉はケンカがそれほど強かったわけでもないのに、知恵で天下を取ったっていうのがとても痛快だったんです。自分もそんなに体が大きいわけではないし、ケンカが強いわけでもないけど、知恵があれば自分も天下人になれるんじゃないかとかという、勇気をもらえたみたいなのが原体験でした。同じことを今の子どもたちにも経験してほしいということを考えたんです。
スローガンとして「子どもでも楽しめる」「初心者でも分かりやすい」「家族でも楽しめる」ドラマにしたいと思っています。親と子が一緒にこのドラマを見て、歴史への興味の扉になってくれたらいいなと。今、実際、そういうお声をたくさんいただいていて、「親子で熱中して見ています」とか、「小学校6年生の息子が毎週毎週楽しみにしています」というような声を聞くと、本当に良かったなと思います。
I:当欄でも、昨年12月の第1回試写会に参加した後の12月21日に『豊臣兄弟!』は子どもたちにこそ見てほしい大河ドラマだという記事を発信していました。(https://serai.jp/hobby/1250338)
編集者A(以下A):昨年の12月もそうですが、2024年の3月に制作発表されて以来、期待感を表明していました。実は、松川さんは制作発表の席でも自身が歴史好きで「推しは秀吉」というアピールをしていました。当時の当欄でのやり取りをどうぞ。
A:ここ数年の大河ドラマで制作統括が「歴史好き」をアピールすることはあまり多くはありませんでした。それだけに「推しは秀吉」という松川氏の登場を素直に喜びたいと思います。さて、『豊臣兄弟!』ですが、難題が待ち受けています。今、知られている豊臣秀吉の生涯のベースになっているのは『太閤記』だったり『絵本太閤記』だったりします。これらの中にはどうも史実とはかけ離れていると思われるエピソードも多いのです。
I:史実ではないけれども、水戸黄門の印籠のように、登場しないとすっきりしないという場合もあるかもしれません。
A:そうした難題が立ちはだかりますが、制作統括が秀吉推しの歴史好きということで、「いくらなんでもそれはありえないでしょう」という「越えてはいけない境界線」を熟知していると思われます。それだけに期待大です。
(https://serai.jp/hobby/1179614/2)
I:という感じで2年前に言及しているのですが、歴史好きの松川さんだけに、期待にたがわぬ展開になっているのが凄いですよね。例えば、草履のエピソード、佐久間盛重の話、城戸小左衛門のエピソードもそうですし、今回、第6回では、藤吉郎と小一郎が画策して美濃に行くっていうアレンジもおもしろかったですね。そういうひねりを加えた変化球が各回あるなっていう感じがしていますが、今後もそういった展開が続いていくのでしょうか。松川さんにそのあたりを質問してみました。
まあ、さすがに毎回ということにはならないですが、しばらく続くかもしれません。草履のエピソードなどは、基本的には脚本家の八津弘幸さんのアイディアです。ただ書き始める前に、シナリオハンティングで一緒に旅行に行って、いろいろゆかりの地などを巡った際、草履の話をした記憶があります。秀吉が草履を温めていたという美談があるけど、それを盗んだってことにしたのは八津さんです。
よくお話しするんですけど、秀吉ですら前半生はほとんど史実が残ってないんですよね。皆さんが史実だと思っていることの多くが、江戸時代の『太閤記』とか、江戸後期、それこそ(昨年の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の主人公)蔦屋重三郎の時代に大ヒットした『絵本太閤記』を典拠にしています。はっきり言って、みんなで創作した秀吉像がどんどん成長して、今ある常識になっている。草履を温めたエピソードも『絵本太閤記』がもとですし、史実でもなんでもない。とすると、それをひっくり返すことは、時代考証の先生たちも何も言えないということがあって、そういうアレンジをしています。
草履のエピソードは、本当は盗もうとしていたけれど、後で秀吉が天下を取って自分の伝記を書かせる時に美談にして作った話、ということを想像したりしてもらいたいかな。
A:松川さんが話されているように、『絵本太閤記』は、蔦屋重三郎が亡くなった年に初編が刊行されていますから、まさに蔦重の時代の作品。秀吉が亡くなってから200年後の創作になります。
I:それからさらに230年ほど経過して制作される物語はまさに「令和の太閤記」。歴史好きの制作統括と希代の名脚本家の紡ぎ出す物語にますます期待が高まります。2月22日放映の第7回には「墨俣一夜城」のエピソードが出てくるそうです。
A:それは楽しみだ。いったい、どんな展開にしてくるのか。
合戦シーンのレベルアップが凄い!
I:今回の大河ドラマで印象的なのが、つらい時代のはずの戦国時代が舞台なのに、どこか朗らかとしていて、明るいなという感じがすることです。主人公小一郎(演・仲野太賀)の性格などもあるのでしょうけれど、衣装も綺麗ですし、見ていて気持ちがいいですよね。そのあたりについても松川さんが答えてくれています。
衣装はすごく明るい色味になっていますが、衣装に限らず、画面が明るいと思うんです。それはけっこう意識しています。戦国で武将の世界だとどうしても色味が落ちるんですけど、見やすくするために画面を明るくしているのがこだわりです。皆さん、お気づきだと思うんですけど、『豊臣兄弟!』もバーチャルプロダクション(VP)を活用しています。LEDウォールに背景を映して、画面を作り込んでいます。実は桶狭間の合戦の戦場は全部スタジオで撮っているんですね。奥の背景で戦っている人達はすべてCGなんです。実は同じ挑戦を『どうする家康』でもやっていますが、そこからもかなり技術が進化しています。CGをなじませるために画面が暗くなるのが嫌だということを我々はずっと言っていて、もう合成がバレてもいいから画面を暗くしないという方向性でいこうと思っていたんですが、おかげさまで大変技術が進歩して、VPでも晴天の下での映像が表現できるようになっています。例えば、第1回で、馬上の信長(演・小栗旬)と対面するシーン。清須城下のシーンですが、あれも背景はVPですね。清須の町並みを青空のもとで描き、それが表現できている。全体として明るい色にしたいというのはかなりこだわっています。
I:大河ドラマは常に先進の撮影技術を導入していることで知られています。松川さんが触れた「バーチャルプロダクション」に加えて、「VFX(ビジュアル・エフェクツ)」などもそうですね。
A:いわれないと「バーチャルプロダクション」だということに気がつかないほどのレベルに達してきているということですね。いや、これは凄い! 私たちは、3年前の『どうする家康』の三方ヶ原合戦の回(第17回)に次のようなやり取りをしているのですが、さすがというか、かなりレベルアップしているということになります。
A:さて、今週は進軍する信玄軍だったり、三方ヶ原で魚鱗の陣形を敷く様子がVFX(ビジュアル・エフェクツ)で描かれました。本作で多用される手法ですが、序盤からかなりアップデートされている感じを受けました。三方ヶ原での武田軍の陣形を見て、今後の大河ドラマの合戦シーンがどう変わっていくのか期待ふくらむシーンになりました。
I:新型コロナ禍の中で、大規模なロケが制限された中で、臨場感を保つためという動機があったかもしれませんが、VFXでダイナミックになったら合戦シーン好きの視聴者はうれしいでしょうね。
A:以前にも言いましたが、さらにアップデートして一大戦国スペクトラムを表現できる日も近いのかもしれないですね。実現は数年後かとも思っていましたが、本作の関ケ原でもさらなるアップデートがみられるかもしれません。
I:なんだかわくわくしてきますね。
A:序盤で批判する人もあった家康の騎乗シーンもしっかりアップデートされていました。わずか数か月でこの進歩です。こういう技術革新にリアルタイムで接することができるというのは喜ばしいことです。どんどんアップデートしていってほしいですね。
(https://serai.jp/hobby/1127919)
濃姫はいなくても大丈夫
I:前週の当欄でも触れたのですが、『豊臣兄弟!』には、織田信長の正室である「濃姫=帰蝶」が登場していません。そのことについて、視聴者から問い合わせがあるようですね。
「濃姫=帰蝶」は登場しないのか? という視聴者の声をたくさんいただいていますが、『豊臣兄弟!』では、市(演・宮崎あおい)と信長の「織田兄妹」というところを際立たせて、「織田兄妹」と「豊臣兄弟」の対比を描いていこうと思っています。その中で、「信長の孤独」というものが設定としてあって、そこに妻なり子供なりが出てきた時に、ぼやけてしまうのです。ふたりきりの兄妹っていうふうに見せたかった。市はこの後、浅井長政(演・中島歩)と結ばれ、三姉妹をもうけますけど、そうなった時に信長はさらにひとりぼっちになってしまう。信長の孤独というものを描く上で、帰蝶が登場すると、テーマが濁ってしまうかなと思いました。時代考証の会議でも、(帰蝶がいなくて)本当にいいんですか? といわれたのですが、「いや、この『豊臣兄弟!』はもう覚悟を決めてこれでいくんです」という話をしましたね。
I:時代考証の会議でも「本当にいいんですか?」ということを聞かれたんですね。
A:まあ、でも1996年の『秀吉』でも桶狭間合戦の際に信長(演・渡哲也)が「敦盛」を舞った際に傍らで鼓を打ったのはお市(演・頼近美津子)ということで、「濃姫=帰蝶」はキャスティングされていませんからね。むしろ、「藤吉郎・小一郎兄弟」と「信長・お市兄妹」の対比を際立たせる方が、面白いですよ。
I:そのお市が嫁ぐのが、浅井長政ということになります。これは重大なトピックス。どのような展開にしてくるのか見ものですね。
A:それは見ものも見ものですよ。歴史好きの制作統括が、どんな物語を紡いでくるのか。ちょっと見逃してしまった! という人も、まだ「第6回」です。
I:今からでもぜんぜん間に合いますよね。

大河ドラマ『豊臣兄弟!』
NHK総合 日曜 20時00分~ 他
【作】八津弘幸 【音楽】木村秀彬 【語り】安藤サクラ
【出演】仲野太賀 池松壮亮 ほか
※宮崎あおいの「崎」は正しくは「たつさき」。
●編集者A:書籍編集者。かつて編集した『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり











