文/鈴木拓也

画像はイメージです。

誰しも、年を重ねるとともに老いていく――これまで自明とされてきた老化現象を抑制する研究が、生命科学の分野で活発になっている。

その進歩は目を見張るほどで、「不老長寿が夢物語ではなくなりつつある」と語るのは、大阪大学の吉森保名誉教授だ。

吉森名誉教授は著書『私たちは意外に近いうちに老いなくなる』(日経BP  https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/25/10/22/02272/)のなかで、「ここ5~10年ぐらいの間に、大きな進展があるのではないか」とも予想している。

本書は、老化研究の最前線をわかりやすく説いた入門書。その内容の一端を、今回紹介しよう。

老化の一要因は急性炎症

人間が老化する原因は、様々な要素が絡んでおり、何か一つのことでは説明できない。現段階の研究では、その全貌まではつかめていないという。

ただ、はっきりしたことはいくつかあって、その一つが炎症だ。

基本的に炎症は、体内に侵入してきた異物に対する防衛反応として起こる。例えば、包丁が滑って指に切り傷ができると、そこに外部から細菌が入ってくる。このとき、免疫システムが発動し、炎症を起こす。この炎症は、免疫細胞を呼び寄せるシグナルの役目をなす。集まってきた免疫細胞は、細菌を退治したり、傷口を修復したりする。傷から回復すると炎症も消える。

こうした突発的な理由で起きる炎症を、急性炎症と呼ぶ。

対して、慢性炎症というものもあって、これは「低いレベルで長期間続く炎症」を指す。

慢性炎症が起きる原因はいくつかあるが、老化細胞と呼ばれる古くなった細胞を、取り除くべき異物と認識することでも起きる。衰えた免疫システムが老化細胞を処理しきれないと、慢性炎症がじくじくと続くことになる。

この慢性炎症は万病の元で、例えば動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞や脳卒中といった重病につながることがある。加齢で免疫システムが弱るにつれ、老化細胞が増え、持病が増えていくという負のサイクルに陥る。こうして、人は老いていく。

老化対策に有効な食品も

厄介な慢性炎症だが、それを抑える生活習慣がある。

吉森名誉教授は、食事の改善を対策の一つに挙げる。

具体的には、「野菜や魚、オリーブオイルなど、抗炎症作用のある食品」がすすめられている。「抗炎症」とは、まさに炎症を抑える効果のこと。逆に、炎症を促進させてしまうのが、「ファーストフードや甘いお菓子」。これは、極力避けた方が望ましいとも。

オートファジーの観点から、好ましい食品も紹介されている。オートファジーとは主に、細胞内の微小構成物を破壊し、新しいものと取り替える機能のこと。この機能が活性化すると老化の抑制につながる。

オートファジーを活性化するとして登場するのが、「納豆、味噌、しょうゆ、キノコ類、チーズ」。これらには、スペルミジンという成分が含まれているが、これが活性化に有効だという。

さらに、吉森名誉教授が注目しているのが、阿波晩茶。徳島県で、古くから親しまれている発酵茶で、数ある食品のなかでも、活性化効果が抜群だとする。それどころか、単なる老化の抑制を超えて、若返り効果の可能性も指摘する。ただ、お茶として飲むのでは有効成分が十分に取れず、吉森名誉教授は、自身が経営する会社「オートファジーゴー」で有効成分を濃縮したサプリメントを開発・販売している。

皮膚の老化を促進する紫外線

加齢にくわえて、外的な要因で老化しやすいのが皮膚だ。

その要因とは紫外線。日光を大量に浴びると、「細胞のDNAが損傷を受けたり、細胞のたんぱく質が変性」したりすることで、老化現象が起こる。それは、皮膚のシミやしわとして現れる。日光によくさらされる手の甲が、他の部位に比べてシミができやすいのは、まさに紫外線の影響。皮膚がんも、長期的に紫外線を浴びることで発症リスクが高まるので、「たかがシミ」と侮れない。

そのため、最も有効な対策として吉森名誉教授が挙げるのが「紫外線を浴びないこと」。具体的には、外出時に日焼け止めを塗ることが推奨されている。

もっとも、いくら紫外線が怖いからといって、終日部屋にこもるのはNG。紫外線によって体内で生成されるビタミンDが不足したり、運動不足による生活習慣病のリスクが上がってしまうからだ。

睡眠不足は老化を加速させる

国際的に見て、日本人の睡眠時間の短さはよく指摘されることだが、実は睡眠が不足すると「老化が加速」するそうだ。

厚生労働省の最近の調査では、平均睡眠時間が6時間未満の人は約4割に及ぶ。この時間で足りるショートスリーパーは、実は「数百人にひとりいるかいないか」で、それは先天的に決まっている。つまり多くの人は慢性的に睡眠不足で、これは「寿命に直結する」そうだ。

睡眠が不十分だと、あらゆる加齢性疾患の発症リスクが高まります。がんや肥満、高血圧症、糖尿病、認知症などです。これが増えると、死亡率が上昇します。これらと睡眠負債の因果関係は明らかになっています。寝ないと確実に老化するのです。
(本書232~233pより)

では、適切な睡眠時間はどれくらいなのだろうか?

吉森名誉教授は、「7時間前後」と記している。この時間が、最も死亡率が低いとされ、これより短いと死亡リスクは上昇していく。本書では、短眠が習慣化している人には、寝る前にお酒やコーヒーは飲まず、寝室の照明はできるだけ落とすなど、アドバイスがなされている。意外にも、スマホやパソコンから発せられるブルーライトは、睡眠に影響を与えるほどではないそうだ。ただし、持続的な操作をしながらコンテンツを観ていれば、入眠が阻害されるので、そこは注意。

また、夜にあまり眠れなかったときは、昼間の仮眠が有効。15~20分の短い眠りが睡眠不足を補ってくれる。このときは、覚醒を促すためカフェインは摂ってもいいとも。

* * *

本書を読むと、世界中で行われている老化研究の進展ぶりには、驚くばかりだ。実際に我々がその恩恵を受けるのは、ちょっと先の未来だが、ここで取り上げた健康習慣を身につけるだけでも、寿命は引き延ばせる。あまり老いずに済むその時がくるまで、気長に精進しようではないか。

【今日の健康にいい1冊】
『私たちは意外に近いうちに老いなくなる』

吉森保著
定価1980円
日経BP

文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram (https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。

 

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