英語を学んで思うのは、ことばは単なる「意味のかたまり」ではなく、響きや場面によって色を変える有機的な生きもののようだということです。中学で習ったような素朴な単語も、言い回しひとつで軽やかになったり、時に深い意味を持ったり、まるで別の顔を見せてくれます。
さて、今回ご紹介するのは“Hang on.”です。

“Hang on.”の意味は?
“hang” は、動詞で、主に「〜を吊るす、掛ける」という意味です。後にくる前置詞によってさまざまな表現に変化します。“hang” と “on”が組み合わさることで、
“Hang on.” = ちょっと待って
という意味になります。
『プログレッシブ英和中辞典』(小学館)には、「1 自動詞(…を)しっかりつかむ(hold on)≪to≫.1a 自動詞ふんばる,持ちこたえる.2 自動詞〔命令文で〕((略式))ちょっと待つ.3 自動詞〈病気などが〉長びく.4 自動詞+…にかかっている」と書かれています。
例えば、
A: “Are you ready to go?”
(もう出発できる?)
B: “Hang on, I can’t find my keys.”
(ちょっと待って、鍵が見つからないんだ。)
などと使うことができます。

“hang on” と “wait” はどう違うの?
私たちが中学校で学んだ「待つ」は、一般的に“wait” でしたね。では、“hang on” とはどのように違うのでしょうか。
“wait”
最も基本的で一般的な「待つ」を表す言葉です。フォーマル・インフォーマルを問わず幅広い場面で使え、長い時間にも短い時間にも対応できます。
例:
“Please wait here.”
(ここでお待ちください。)
“Wait a minute. I’ll get my keys.”
(ちょっと待って、鍵を取ってくるね。)
“hang on”
カジュアルで、「ちょっと待って」「ほんの少しの間」というニュアンスがあります。特に電話中や会話の途中でよく使われます。
例:
“Hang on, I’ll check something.”
(ちょっと待って、確認するよ。)
A: “Can you help me with this?”
(手伝ってくれる?)
B: “Hang on, I’m finishing my work.”
(ちょっと待って、仕事を終わらせてるところだから。)
ビジネスシーンでお客様にお願いするなら“Please wait a moment.” 友達に「ちょっと待ってね。」と声をかけるなら“Hang on.” など、状況によって使ってみてください。
“Hang” の他の表現
動詞“hang” には「吊り下がる」「しがみつく」といった物理的なイメージがあります。そこから意味が広がり、日常でもよく使われる言い回しがたくさんあります。ここでは、その中でも特によく耳にする表現を3つご紹介しましょう。
1. “Hang out.”
意味:遊ぶ、のんびり過ごす
A: “What did you do yesterday?”
(昨日は何してたの?)
B: “Nothing special, just hung out with friends.”
(特に何も、友達とぶらぶらしてたよ。)
2. “Hang up.”
意味:電話を切る
“Sorry, he just hung up on me.”
(ごめん、彼が急に電話を切っちゃった。)
3. “Hang in there.”
意味:頑張れ
A: “This project is so hard.”
(このプロジェクト、すごく大変だよ。)
B: “I know. Hang in there, we’re almost done.”
(わかるよ。頑張って、もうすぐ終わるから。)
“hang” は、物理的に「ぶら下がる」ところから、「引っかかる」「留まる」という意味となり、その後、「待つ」「がんばる」など、抽象的な意味へと広がっていきました。

最後に
「待つこと」について、アメリカ出身の友人とメキシコ出身の友人に話を聞きました。
日本では「待つこと」が忍耐や我慢と結びつき、人気のラーメン店などの前で、礼儀正しく列に並ぶ姿は、とても日本らしい光景だと感じるそうです。
一方、アメリカでは「待つこと」は効率的でないと受け取られることが多く、時間は最大限に活用するものと考えられています。そのため、サービスの場面などでは“No waiting(待ち時間なし)” や “Fast service(迅速なサービス)” が重視されます。
また、ラテンアメリカでは、「待つこと」が社会的な交流の場になることがあります。静かに時間を過ごすのではなく、待ちながら会話を楽しんだり、バス停や待合室で情報を交換するのはよくあるそうで、ちょっとした社交の場が生まれたりもします。そこには、時計にしばられない、ゆったりとした時間の感覚が流れています。予定もおおらかで、西洋的な「きっちりとした時計の時間」とは異なるようです。
「待つこと」という、たったひとつの行為でさえ、場所や文化、時代によってその姿を変えていきます。その多様さに心をひかれると同時に、きっとまだ知らない土地にも、また違った時間の流れがあるのだろうなと想像すると、なんだか楽しくなります。
次回もお楽しみに。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com
