
ライターI(以下I):さて、『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(以下『べらぼう』)第39回では、町奉行の初鹿野信興が蔦重(演・横浜流星)の取締りに登場しました。初鹿野氏は、甲斐武田家から鎌倉時代に分流した一族で、長く武田家に仕えた「名門」で、武田家滅亡後に徳川家に従ったそうです。劇中に登場していた信興は、浦賀奉行などを歴任した後に、町奉行に就任したというわけです。先般の参院選挙で神奈川選挙区から当選した初鹿野裕樹参院議員は、信興の子孫にあたるそうです。前職は警視庁勤務ということですから、江戸の治安を守るのが家業だったということでしょうか。
編集者A(以下A):一方の長谷川平蔵の家は、もともと今川家の家臣で、桶狭間の戦いで今川義元が討たれたあとに、家康に従った家系です。家康が大敗した三方ヶ原の戦いでは、戦死者を出しています。
I:旗本の人たちのルーツをたどると、それぞれ家康とのつながりがあったりしますよね。
A:再来年の大河ドラマに決まっている『逆賊の幕臣』の主人公である小栗忠順の小栗家も、家康の身辺近くに仕えて、家康の「ボディガード」的な存在の家柄だったことが知られています。
I:さて、「葵小僧」という武家の装いで人々を欺き、盗みを重ねる盗賊が登場しました。恐れ多くも徳川家の葵のご紋をかたどった提灯を手に商家などに強盗に入り、押し込み先の女性を強姦したとも伝えられる極悪非道な盗賊です。
A:葵小僧は、実在の盗賊で、史実では、中山道最初の宿場町板橋宿で長谷川平蔵に捕らえられたそうです。
I:板橋宿って、現在は「仲宿商店街」になっているのですが、長谷川平蔵が葵小僧を捕まえた場所はどこになるのでしょうね。地方の自治体なら大河ドラマにわずかでも登場したらその場所をアピールするんですけど、板橋宿からの発信はいまのところないですね。
A:このころ盗賊が盗みにはいったのは大名屋敷や商家への強盗がメイン。江戸時代もこの時分は、大方の大名が財政難ですから、屋敷の大きさに比して警備が手薄だったのでしょう。『べらぼう』の時代には、稲葉小僧、田舎小僧という盗賊が江戸市中を跋扈していたといいます。暗躍した時代がほぼ近接していたということで、同一盗賊説があったりして、歴史ファン泣かせなのですが、有名な鼠小僧は、さらに後の時代に登場する盗賊になります。
I:それにしても、中村隼人さん演じる長谷川平蔵宣以の捕り物劇。感慨深いですよね。
A:『大富豪同心』の八巻卯之吉役が大好きなファンの方々、もちろん本業の歌舞伎の役どころも愛するファンの方々にとっても、ひときわ胸熱のシーンでした。
I:やっぱりかっこいいですよね。またスピンオフが見たいとか言い出すんですよね。
A:まあ、これまで採用されたことはないのですが、やっぱり中村隼人さんのスピンオフ、見たいですね。

●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ~べらぼう~蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。同書には、『娼妃地理記』、「辞闘戦新根(ことばたたかいあたらいいのね)」も掲載。「とんだ茶釜」「大木の切り口太いの根」「鯛の味噌吸」のキャラクターも掲載。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり
