マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研(https://souken.shikigaku.jp)で、近年よく耳にするようになった「インシデント」について学びましょう。

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インシデントとは、あらゆる業種で起こり得る、「業務に支障をきたす出来事」のことです。重大な事故につながる前段階として捉えられることが多く、組織として早期に対応・共有することが求められます。再発防止や安全管理体制の強化のためにも、インシデントの正確な把握と記録が欠かせません。

この記事では、インシデントの概要や代表例、管理方法や対策法を紹介します。

インシデントとは重大事故につながる可能性のある異常事象

インシデントとは、企業活動において正常な業務を妨げる異常事態を指します。例えば、情報漏えいやシステム障害、内部不正、製造ラインの停止など、業種・部門を問わずさまざまなリスクが該当します。

インシデントは、一見軽微に見えるものでも、放置すれば深刻なトラブルに発展しかねません。そのため企業では、インシデント発生を前提にした「事前準備」と、発生後の「的確な対応体制」が重要です。

はじめに、インシデントの意味やアクシデント、ヒヤリハットの違いについてわかりやすく解説します。

業界・分野別の意味の違い

インシデント(incident)は直訳すると「出来事」「事象」などを指しますが、ビジネスや業界によってそのニュアンスは少しずつ異なります。

以下に、代表的な分野ごとの定義をまとめました。

インシデントは単なる問題発生だけでなく、潜在的なリスクや未然に防がれたトラブルも含む広義の概念であるといえます。

インシデント、アクシデント、ヒヤリハットの違い

インシデントとよく混同されやすい言葉に「アクシデント(事故)」や「ヒヤリハット(未遂)」があります。これらの違いを押さえておきましょう。

インシデントは事故は起きたが被害は小さい場合や、発覚していない場合もあり、周囲が気付かないこともあります。

アクシデントは、実際に被害が発生した事故で、即時対応や復旧が必要です。

ヒヤリハットは、事故の一歩手前で本人が危険を感じた体験で、感情的な要素が強い傾向です。

企業には、ヒヤリハットやインシデントを早期に発見・対処し、アクシデントの発生を防ぐことが求められます。

業界別インシデントの具体例

業種によって発生しやすいインシデントの傾向は異なります。ここでは、代表的な業界別に、企業が直面しやすいインシデントの例を紹介します。

企業における代表的なセキュリティインシデント

近年のデジタル化の進展に伴い、多くの企業が直面するリスクの一つに「セキュリティインシデント」があります。

セキュリティインシデントとは、企業や組織の情報資産やシステムに対して発生する、情報セキュリティ上の異常事象を指します。

これらは、企業の信頼失墜や経済的損失につながる可能性があり、早期発見と対処が求められます。経営やブランドに甚大な影響を及ぼすことも少なくありません。

企業における代表的なセキュリティインシデント例には、以下のようなものがあります。

・不正アクセスによる顧客や従業員の個人情報流出
・マルウェアやランサムウェア感染によるシステムの暗号化や業務停止
・フィッシングメールや標的型攻撃による端末感染や情報漏洩
・社内からの情報持ち出しや内部不正による機密情報漏えい
・サプライチェーン攻撃による取引先経由の侵入被害

インシデントの発生が企業に与えるリスク

情報漏えいやシステム障害、労働災害など、インシデントが発生すると、企業はその対応に追われるだけでなく、事業全体に深刻な影響を受けることがあります。

直接的な業務の停滞やコストの増加にとどまらず、顧客や従業員の信頼低下、法的リスクの高まりといった中長期的なダメージも避けられません。

ここでは、企業が被る代表的な影響を4つの観点から整理します。

業務停止や生産性の低下

情報漏えいやシステム障害などのインシデントが発生すると、業務の一時停止や対応作業に人員を割かざるを得なくなります。その結果、通常業務が滞り、生産性が大幅に低下する恐れがあるでしょう。

また、復旧作業にかかるコストや緊急対応費用など、短期的にも経済的な損失が発生することも見逃せません。特に、製造業やECなどリアルタイム性が求められる業種では、深刻な売上減少に直結するケースもあります。

顧客や取引先からの信頼低下

インシデントによって企業の信頼性が損なわれると、顧客や取引先との関係に悪影響を及ぼします。特に、個人情報漏えいや契約違反などが発覚した場合、SNS上での批判や炎上につながり、企業イメージの失墜は避けられません。結果として、新規取引の機会を失ったり、既存顧客から契約の見直しや解約を迫られるリスクも生じます。

信頼の回復には長い時間と追加のコストが必要となることも多く、経営上の痛手となるでしょう。

法令違反や賠償責任

インシデントの内容によっては、個人情報保護法や労働基準法、景品表示法などの法令違反が問われる可能性があります。行政指導や罰則に加えて、被害者への損害賠償責任が発生するケースもあり、企業にとって大きな法的リスクといえるでしょう。

場合によっては、法務対応や訴訟リスクの管理に多大な時間とコストを要することも。特に、中小企業にとっては、経営を揺るがす重大な問題となることもあります。

従業員のモチベーション低下

インシデントが頻発する企業では、従業員の間に不安や不信感が広がりやすく、モチベーションの低下や心理的ストレスにつながります。

職場環境が不安定になれば、優秀な人材の離職につながることも。特に、パワハラ・セクハラなどの内部統制上の問題が発覚した場合、企業文化そのものに疑問が持たれ、採用活動にも悪影響を及ぼします。

企業がとるべきインシデント対策と予防策

情報漏えいやサイバー攻撃といったインシデントは、企業の信用や事業継続に深刻な影響を与えます。そのため、事後対応だけでなくインシデントを発生させないための対策が重要です。

ここでは、企業が取り組むべき基本的なインシデント対策を解説します。

社内ルールやマニュアルを整備する

インシデント発生時の適切な初動対応には、事前に社内ルールやマニュアルを作成しておくことが重要です。

報告・連絡・相談(ホウレンソウ)のフローや、被害拡大を防ぐための初動対応手順を標準化しておくことで、組織全体での迅速な対処が可能になります。

どんな情報を、誰にどのタイミングで報告すべきかといった具体的な判断基準まで落とし込むことが、実効性を高めるポイントです。

情報セキュリティ対策を強化する

システムへの不正アクセスや内部不正を防ぐためには、情報セキュリティ対策が欠かせません。

ユーザーごとにアクセス権限を細かく設定し、重要な情報へのアクセスを最小限に制限したり、多要素認証(MFA)を導入して侵入リスクを低減したりしましょう。

また、ログ管理やアクセス履歴の定期的な監査を実施することで、潜在的なリスクの早期発見にもつながります。

従業員教育や啓発活動を実施する

インシデントの多くは、従業員の不注意や知識不足など人的な要因によって引き起こされます。そのため、従業員のリテラシー向上は不可欠です。

情報セキュリティ研修に加え、フィッシングメールを模した訓練の実施や、eラーニングによる継続的な学習機会の提供が効果的です。あわせて、なぜ対策が重要なのかを理解させることで、セキュリティ意識の定着を図ります。

BCP(事業継続計画)との連携

万が一セキュリティインシデントが発生した際にも、事業の中核機能を止めずに継続させるためには、BCPとの連携が重要です。セキュリティリスクを考慮したBCPを策定することで、事業への影響を最小限に抑えることが可能になります。

例えば、代替拠点での業務継続や情報システムのバックアップ、通信手段の確保といった対策を組み込んでおくと良いでしょう。

インシデント管理の目的

インシデント管理は、単に問題を記録・対処するだけでなく、組織全体の健全な運営を支える重要な仕組みです。

万が一のトラブルを教訓に変え、同じ過ちを繰り返さない体制づくりを目指すことで、企業価値や社会的信頼の向上につながります。

インシデント管理が担う目的を解説します。

再発防止して継続的な改善を行う

インシデント管理の第一の目的は、同様のトラブルの再発を防ぐことです。

単に対応策を講じるだけではなく、発生原因の分析を通じて根本的な問題点を特定し、業務プロセスや制度そのものを見直す必要があります。

「PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクル」を活用して業務改善につなげましょう。例えば、再発防止策を立案(Plan)し、社内教育やルール整備などで実行(Do)、その効果をKPIで定量的に検証(Check)し、必要に応じて追加の対策を講じる(Act)といった流れです。これにより、場当たり的な対応ではなく、持続的な業務改善が実現できます。

社内のリスク管理体制を構築する

インシデント管理は、企業全体のリスク管理体制において重要な役割を果たします。

重大なトラブルやヒヤリ・ハットの情報を一元的に収集・分析することで、経営層はリスクの全体像を把握しやすくなり、適切な判断や対策を講じられるようになるでしょう。

また、インシデント管理の仕組みは、ガバナンス(企業統治)や内部統制とも密接に関わっています。内部通報制度や監査体制との連携によって、法令違反や不正の兆候を早期に把握し、組織の健全性を保つことに役立つはずです。

ステークホルダーへの説明責任を果たす

企業が社会的責任を果たすうえで欠かせないのが、インシデントに対する説明責任です。

特に、コンプライアンス違反や情報漏洩など、社会的影響の大きい事案については、取引先や顧客、株主といったステークホルダーへの誠実な対応が求められます。そのためには、発生から対応・再発防止に至るまでの記録を適切に残し、必要に応じて迅速かつ透明性のある報告を行う体制づくりが不可欠です。

隠蔽や報告遅延は、信用失墜や法的リスクを招くおそれがあり、長期的に企業にとって大きな損失となりかねません。

組織のレジリエンスを強化する

インシデント管理は、組織のレジリエンス(回復力)を高めるために有効です。トラブルを通じて得られた学びや改善策を組織全体に共有することで、同様の事象が他部門で起きるのを防ぎ、将来の危機にも柔軟かつ迅速に対応できる体制を築けるでしょう。

また、BCP(事業継続計画)や危機対応マニュアルと連携させることで、災害・事故・サイバー攻撃といった突発的なリスクへの対応力も強化されます。

予測できない事態への備えとして、インシデント管理は組織の持続的成長に直結する重要な戦略でもあるのです。

インシデント管理の基本ステップ

インシデントは、企業の信用や事業継続に深刻な影響を与えかねません。迅速かつ的確に対応するには、事前に管理プロセスを整備し、段階的な対応ステップを明確にしておくことが重要です。

ここでは、インシデント発生から再発防止までの基本的なステップを解説します。

ステップ(1) インシデントの発見・報告

インシデント対応の第一歩は、いち早く異常を察知し、適切なルートで報告することです。

現場の社員やシステムの監視担当者が、セキュリティ上の懸念や障害の兆候に気づいた時点で、速やかに社内の定められた窓口へ報告します。報告時には「いつ・どこで・何が・どのように発生したか」を具体的に伝えることが重要です。

社内の通報フォームやチャット、電話など、報告手段は統一しておくと初動がスムーズになります。

ステップ(2) 初動対応と報告

報告を受けた後は、インシデントの緊急度や影響範囲を迅速に判断し、必要に応じて専門部署や管理職へ連絡・共有しましょう。

システム障害が一部のユーザーにとどまる場合と、全社的な業務停止に直結する場合では対応体制が大きく異なります。

社内で定めた基準に従って対応レベルを判定し、初動対応チームが一次対応を実施してください。

ステップ(3) 原因分析と記録の作成

インシデントの収束後は、発生原因の特定を行います。

なぜ発生したのかを明確にするために、5Why分析やシステムログ、監視ツールの記録などを活用して事実を掘り下げましょう。

調査結果はインシデント報告書にまとめ、事実・対応内容・タイムライン・関係者コメントなどを網羅的に記載することで、再発防止に役立ちます。

ステップ(4) 再発防止策の立案と共有

原因分析結果をもとに、再発防止策を具体化します。

例えば、操作手順の見直し、監視システムの強化、教育内容のアップデート、権限管理の精緻化などです。策定した改善策は、関係部署と連携しながら社内に展開し、ナレッジとして蓄積します。

また、社内研修やマニュアル更新を通じて、組織全体のセキュリティ意識向上につなげることが重要です。

インシデントとは何かを正しく理解し、組織のリスクを最小限に

インシデントとは、業務の安全性・品質・信頼性を脅かす予期せぬ出来事を指します。インシデントは業界や分野によって異なる形で発生しますが、事前の予防策と発生時の迅速な対応が重要な点では共通しています。インシデントとは何かを正しく理解し、継続的な管理体制を構築して組織の信頼を守りましょう。

【この記事を書いた人】
識学総研 編集部/株式会社識学編集部です。『「マネジメント」を身近に。』をコンセプトに、マネジメント業務の助けになる記事を制作中。3,000社以上に導入された識学メソッドも公開中です。

引用:識学総研 https://souken.shikigaku.jp/
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