
ライターI(以下I):『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(以下『べらぼう』)も第37回になりました。
編集者A(以下A):前週の恋川春町(演・岡山天音)の死がいまだに胸に響いています。武士としての面目を保つために腹を切り、戯作者としての生きざまを示すために「豆腐の角で頭を打った」という演出をする……。
I:なんだかかっこいい「最期」でしたね。「壮大なるエンターテインメント」である大河ドラマの真骨頂だと感じています。そして、今週は、蔦重(演・横浜流星)とてい(演・橋本愛)、北尾政演(山東京伝/演・古川雄大)のやり取りが、沁みますね。
A:蔦重はあくまで「ふんどし」=松平定信(演・井上祐貴)の施政に抗おうと考えている。しかし、耕書堂の安定的な経営を望むていは、蔦重の方針に危うさを感じているわけです。
I:そんな構図が続いていましたが、北尾政演の「客と女郎」の関係を描いた作品を蔦重が受け入れます。
A:作品づくりは人と人とのぶつかり合いの部分もありますから、多少の衝突はやむを得ないですね。政権批判を盛り込もうとするオファーに対して、「黄表紙なんておもしろければいいんだから」といったような意見が出てくるのもふつうといえばふつう。そうやって良い作品ができることもあれば、袂を分かつこともある。「蔦重、てい、作家陣(今週は北尾政演)」のやり取りは深いですよ。
I:そんななかで、蔦重が説教臭いと難色を示していた企画が、当の北尾政演の手で、しかも他の版元から執筆されて、ヒットしてしまいます。希代の出版人、蔦重にして、時流の変化を読み誤ってしまったということでしょうか。
A:視聴者それぞれの立ち位置、思い入れの有無で、見方が変わる場面だと思いますが、私は見誤ったとは思いません。蔦重とて「万能神」ではないのですから、こういうこともあるでしょう。
I:私はこの場面を教訓だと思ってみました。フリーランスの私は、「下からあがってきた企画」が潰される現場をいろんなところで、たくさんみてきました。あるところで潰された企画が、別のところで日の目をみてヒットするということもありました。
A:そうですか。あの場面をそういうふうにみましたか。蔦重は、田沼政権が倒れたあとに苦難の道を歩いているようですが、こうした時流の中でも、常に反転攻勢を試みています。
I:それが、今後どういうふうに描かれるのか。注目ですよね。
A:しかし、北尾政演がほかの版元で執筆した『心学早染草(しんがくはやそめぐさ)』に描かれた「善魂」「悪魂」が今日の「善玉」「悪玉」のルーツというエピソードはおもしろいですね。私は、「悪玉コレステロール」のことを即座に想起してしまいました。

【たかが羊羹だけれども。次ページに続きます】
