日本語には、文化的な背景を知らなければ、他の言語を話す人には意味が伝わりにくい表現がいくつもあります。それと同じように、英語にも、母国語の感覚ではなかなか想像しにくい、独特な言い回しや表現があります。今日は、そんな表現のひとつをご紹介します。
さて、今回ご紹介するのは“bucket list”です。

目次
“bucket list” の語源は?
「死ぬまでにやりたいこと」から生まれたアート
最後に
“bucket list” を直訳すると、“bucket” は(バケツ)、“list” は(一覧表、リスト)ですが……、そこから転じて
正解は……「死ぬまでにやりたいこと」という意味になります。
例えば、こんなふうに使います。
1. “Seeing the Northern Lights is on my bucket list. ”
(オーロラを見ることは、私の死ぬまでにやりたいことのひとつです。)
2. “Do you have a bucket list? ”
(あなたには「死ぬまでにやりたいこと」はある?)
“bucket list” の語源は?
この表現は、英語の“kick the bucket”(俗語で「死ぬ」の意味)というフレーズから派生したといわれています。
起源には諸説ありますが、有力なのは、昔、首つりの際に逆さにしたバケツを足場として使い、それを蹴って命を絶つ……という光景から“kick the bucket(バケツを蹴る)” が「死」を意味するようになったというもの。
この「死」のイメージから、“bucket list” は「死ぬまでにやっておきたいこと」という意味を持ち、広く使われるようになりました。

「死ぬまでにやりたいこと」から生まれたアート
2011年、アメリカ・ニューオリンズに住むアーティストのキャンディ・チャンは、自宅近くの廃墟となった建物の壁を黒板に改装しました。
黒板いっぱいに、以下の文が羅列していました。
“Before I die, I want to______________.”
(死ぬ前に、私は____________したい。)
この空白の部分に、誰でも自由に思いを綴ることができます。
国籍や年齢、立場を問わず、人々は言葉を書き込んでいきました。ときにユーモラスに、ときに切実に、さまざまな願いを映し出します。実際に書かれた言葉を少しだけご紹介します。
『私は、死ぬ前に________________。』
「許したい」
「本当の自分で生きたい」
「ピアノが弾けるようになりたい」
「パリで雨の中を踊りたい」
「人魚になりたい」
「ピザを1枚まるごと1人で食べたい」
「恋に落ちたい」
「もう一度お母さんに“愛してる”と言いたい」
こうした願いが綴られたこのプロジェクトは、これまで75か国、5000以上の都市に広がり、誰もが参加できる公共アートとして、対話の場をもたらしています。

最後に
アメリカの詩人・エッセイストのウォルト・ホイットマン(1819-1892)は、自由な詩の形で、人間の尊厳や自然をたたえる言葉を紡いだことで知られています。
代表作“Leaves of Grass” (草の葉)から、彼の考え方が表現されている一節をご紹介します。
Songs of Myself by Walt Whitman
I bequeath myself to the dirt to grow from the grass I love,
If you want me again look for me under your boot-soles.
…
「私自身の歌」より ウォルト・ホイットマン
愛する草のもとから芽ぶくため、この身体を土へ遺す
もう一度私に会いたければ、靴底の下を探してごらん
…
出典:Leaves of Grass: Unabridged Deathbed Edition with 400 Poems, SeaWolf Press, 2023年
ホイットマンにとって、死は終わりではなく、自然の中で新たな命へとつながる循環の一部。そのように考えると、「死ぬまでにやりたいこと」も、おおらかに見つめられるように感じます。
次回もお楽しみに。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com
