【定年後の歩き方】「妻の管理と支配から脱出したい」30年近く連れ添った妻と定年離婚して得た自由な生活～その１～

同居期間20年以上の、いわゆる「熟年離婚」が増えているという。2022年『人口動態統計』（厚生労働省）を見ると、離婚の全体件数は約18万組（ピークは2002年の約29万組）で減少傾向にある。一方で、増えているのは、同居期間20年以上の夫婦の離婚だ。ここ20年以上、4万組前後の高止まりを続けている。全体件数に占める「同居20年以上」の割合は23.5%で、前年比1％程度の増加を続けている。

俊一さん（62歳）もそのうちの一人だ。定年退職の数年前に、30年近く連れ添った妻と離婚した。「熟年離婚というと、妻が周到に準備をして、夫に離婚を突きつけるケースがクローズアップされているけれど、ウチはその逆」という。

仕事では相手の腹の底まで見るのに、結婚相手はそうしなかった

新卒から商社に勤務し、60歳で定年退職をした俊一さんは、現在タクシー運転手として働いている。今、毎日がとても楽しいという。

「子供の頃から車とエンジンが好きだったので、本当は整備工になりたかったんです。でも、親が“頼むから大学に行ってほしい”と言うこともあり、無難な大学の商学部を卒業して、新卒で商社に入りました」

世界中に支社がある商社の内定を決めた俊一さんは、同級生から嫉妬や羨望を集める。入社してからは水産加工物を担当。30歳までの8年間は世界各国を飛び回っていたという。

「現地で実際にモノを見ないと買えない。モノを扱っていても、なんだかんだ言って、人間関係です。“この年は不漁だったので、あっちの会社には高く売るけれど、この担当はいい奴だから通常の値段で出そう”とかね。そういう“義”ともいえる人間関係が築ける人は限られている。

仕事だと、相手がどんな人間か、腹の底まで見ようとするのに、結婚相手は上司と親が勧めるまま、適当に決めてしまったのが、よくなかった。奥さんだった人にも悪いことをしてしまった」

結婚したのは28歳のとき。当時は独身のままでいると社会的な信頼を得にくい暗黙のルールがあり、追い立てられるように結婚した。

「今では考えられないけれど、“結婚している＝まともな人”だったんですよ。この“まとも”には、多くの意味があり、社会的規律を守る、他者と協調できる、責任感がある、常識的な判断ができる、言動の一貫性がある、経済的な感覚が常識的で生活の自立ができるなどが含まれていた。つまり、結婚してしまえば、以上の可視化できない要素を“持っている”人として信頼されるので生きやすかったのです」

妻は、会社が運営する結婚相談システムで紹介された人だった。当時、大きな企業は、独身の男性社員のために、マッチングサービスを行なっていたのだという。

「私は自由な女性が好きで、独身時代に交際していたのは、小劇団の女優、フリーのルポライター、スナックのママなど。彼女たちはタバコも吸うし、ルーズだし、金銭感覚も危うい。精神的にも不安定で、男女関係も奔放でした。いつも私は浮気されて、別れてしまっていた。彼女たちと交際しつつ、結婚するなら、おとなしくて、家庭的な女性がいいだろうと感じていたのも事実。そこで、ウチのグループ会社の役員の娘と結婚したんです」

【家庭的というのは、支配的ということでもあった……次のページに続きます】