
2025年5月16日、マスターカードは2025年の旅行動向に関する最新レポート『Travel trends 2025』を発表。「全世界における、この夏の注目旅行先ランキング」を見ると、1位が東京、2位が大阪だった。ちなみに3位はパリ、4位は上海市、5位はマヨルカ島(スペイン)だ。
哲人さん(63歳)は大手メーカーを定年退職し、再雇用されたが1年前に辞め、この1年間、旅行ばかりしているという。「再雇用の給料は、思いのほか安く、仕事内容は変わらない。もう十分貢献したので、任期満了前に辞めました。時間ができたから旅をしようと」
旅を楽しめるのは、元気なうちだ。また、Facebookで女友達を交えて旅をしている友人たちの投稿に憧れる気持ちもあり、1年前に妻と2週間のヨーロッパ巡りをした。しかし、妻に「受け身すぎる。私は無料のツアコンではない」と怒られてしまう。
そこでまずは一人旅を始めることにした。行き先は、ジャッキー・チェン映画が好きだったことと、低予算で旅ができることもあり、香港に決めた。
【これまでの経緯は前編で】
旅行アプリを登録するところから始める
哲人さんは旅の初心者だ。とりあえず旅行代理店に行ったら、想定予算の3倍以上のツアーを提案されてしまったという。
「香港の一人旅、3泊4日程度なら6万円程度だろうと相談に行ったらホテルと飛行機代で20万円だと言われました。それは高いと思い、友人に相談すると、旅の予約のアプリを教えてくれた」
チケットとホテルをワンストップで予約できるアプリが複数あり、それらを使い比べるところから始めた。今は多種多様なチケットがあり、宿泊先も選び放題。ただ、安いプランは成田発着の深夜・早朝便ということもあるので、よく見ないとダメだと感じる。
「いろんな旅先を検索して、実際に自分が旅に行くという想像力と共にそのルートと辿る。これが結構、面倒でもあるのですが“旅の練習”なんだと。私はこれを妻に丸投げしていた。そりゃ怒るよなと思い、妻に謝ったら“わかればいいのよ”と」
具体的な旅の計画を立てるうち、現地の気候や持ち物など考えることが多いことに気づく。1週間の準備を経て62歳にして初の一人旅に旅立った。実際に香港に行ってみると、右も左も分からなかったという。
「空港から市内に向かう特急の乗り方がわからず、いろんな人に聞いてやっと乗ることができました。駅からホテルまで地図アプリを頼りに歩き、1日目は終了。翌日からいろいろ回ろうと思ったのですが、そこにどうアクセスしていいかわからない」
地図アプリでルート検索したが、老眼にスマホの画面は厳しい。ルートのアイコンを示している、路面電車とバスの区別がつかなかった。「おそらく、これだろう」と思ったバスに乗ったら、違う方向に行ってしまったという。
「どうも山の方に行くようだと、そのまま乗っていたら、眺望を楽しめる公園に到着。そこで風景を楽しみつつ“俺はダメだなあ”と(笑)。戻りのバスに乗ってホテルに戻りました」
タクシーに乗ろうにも、言葉が出てこないから、目的地も言えない。その目的地も特に行きたい場所ではないので、ホテル周辺の散歩をして4日間を過ごした。
「食事も現地の食堂は、衛生的に不安があると感じ、ホテルのレストランとファストフードで済ませました。62歳の人生初の一人旅はこんなもんだろうと感じましたが、これではダメだという思いもあった」
ただ、現地に行って良かったのは、「実際にその場所に4日間いると、親しみがある場所になる」という気持ちの変化だ。
「ホテルの近くに、かつてカイタック空港だったというショッピングモールがあった。そこを散歩しながら、ビルの間を離着陸する空港がここにあったんだと想像すると楽しくなる。実際に行くと、歴史や文化にも興味を覚える。そこから無理やり知識と好奇心を広げていったのです」
オンラインの英会話教室も受講し、自分が英語を話す力も身につけ始めた。それからすぐにバーゲンチケットを予約できたこともあり、1か月後に再び香港に行き、同じホテルに宿泊。スタッフが覚えてくれたのが嬉しかったという。
「前回、日本語がわかるスタッフに、レストランの食事の予約について何度も質問したんです。彼が“また来てくれましたね”と迎えてくれた。旅は人に会いに行くという側面もあるんだと改めて思いました」
【案内したくなる街を作るのが、旅行を楽しむことなのかもしれない……次のページに続きます】
