物語は、心に蒔かれた種である。幼いある日に読んだ漫画の小さなフレーズが思いもかけずに蘇えってくることがある。生きてきた道を振り返ると、いくつもの岐路で物語の断片たちは、標となり灯火となって私たちを導いてきた。人生を変えた名作漫画に、再び出会う。
「“おまえ、そのくらいの取材で大丈夫か?”と、『ゴルゴ13』を読むたび突きつけられる思いがしました」

1940年生まれ。京都大学卒。『サンデー毎日』編集長、テレビ朝日『ザ・スクープ』キャスターなど歴任。著書に『がん患者』など。
「漫画を読むという行為は、その回きりの真剣勝負なんです」
報道の最前線に立ち続けていた鳥越俊太郎さんならではの漫画の向き合い方である。
「作者からサイン本を贈られた」という『あずみ』(上の写真)や『ゴルゴ13』などの一部例外を除き、鳥越さんはコミックスで漫画を読まない。雑誌連載時に集中して読むのが鳥越さんの流儀だ。
「『ビッグコミック』は創刊2年目頃に買い始め、イラン・イラク戦争の取材でテヘランにいたとき以外は、ほぼ欠かさず読んでいます。多いときは、月に10冊以上漫画雑誌を購入していたのですが、長期出張の際は女房にメモを渡し、代わりに購入してもらっていました。“売店で買うのが恥ずかしい”とぼやいていましたが」
『ゴルゴ13』の一流の取材力
『ビッグコミック』を読み続けるのは看板連載『ゴルゴ13』の存在が大きい。著者のさいとう・たかをは2021年に亡くなったが、その後もさいとう・プロダクションが連載を続けている。
「スナイパー・ゴルゴ13 のヒーロー物でもありますが、そこに至るまでの事件の描き方、情報収集力が桁外れです。この漫画で国際情勢を学んだという人も多いのではないでしょうか。読むたびに“おまえ、そのくらいの取材で大丈夫か”と突きつけられている思いがしました。『ゴルゴ13』の取材力に一歩でも近づく、というのは、新聞記者時代もテレビキャスターの時代も心がけていたことです」
鳥越さんが漫画に求めるのは、一貫して「しっかりした調査や取材に裏打ちされた情報と、その情報によって組み立てられた骨太のストーリー」だ。
「漫画はあくまでフィクションですが、読者を納得させるストーリーにするためには、でたらめじゃだめ。事実関係をしっかり調べ、読者に“そうだったのか!”と思わせる必要があります」
例えば『あずみ』を読むと、江戸時代初期の幕藩関係の緊張感や、各地の歴史や風土が見えてくるのだという。手塚治虫が『鉄腕アトム』に描いた未来は荒唐無稽ではなく、手塚の科学的知識や想像が紡いだ未来だった。この真実味に、鳥越さんは引き込まれた。
「漫画は、テレビと活字の中間にあって、自分でイマジネーションを補完することができる。これが楽しいんですね」

『ビッグコミック』
1968年創刊の青年漫画誌。鳥越さんは創刊2年目頃に知り、以来、ほぼ欠かさず読み続ける。なかいま強の相撲漫画『うっちゃれ五所瓦 粘り腰編』や石塚真一のジャズ漫画『BLUE GIANT MOMENTUM(ブルー ジャイアント モメンタム)』がお気に入り。
小学館(電話:03・3230・1771) 480円
『鉄腕アトム 手塚治虫文庫全集』手塚治虫著
「小学生の頃、雑誌『少年』で読んで、“これからの未来はこうなるのか!”とショックを受けた」と鳥越さん。1952〜68年連載の作品だが、ドローンやAI、精巧なロボットが登場する未来図をすでに描いている。(C)手塚プロダクション
講談社(電話:03・5395・3608)990円
『あずみ』小山ゆう著
江戸の初期を舞台に、美少女の刺客あずみが幕府の邪魔者を次々と暗殺していく。1994〜2008年まで『ビッグコミックスペリオール』で連載。「小山ゆうさんの美しい絵を存分に堪能してください」(鳥越さん)
小学館(電話:03・3230・5749)509円 ※品切れ
『ゴルゴ13』さいとう・たかを著
「ゴルゴ13の活躍を描いているけれど、事件の背景を描き込むその取材力に唸る」と鳥越さん。1969年1月号から『ビッグコミック』で連載中。現在、コミックスの刊行数は219巻で、これはギネス世界記録。
リイド社(電話:03・5373・7001) 535円
取材・文/角山祥道 撮影/宮地 工

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