2024年5月18日、自動配車アプリを展開するアメリカの企業・ウーバーは、傘下のフードデリバリーサービス「Ubeer Eats(ウーバーイーツ)」のアジア事業拡大を狙った事業買収を発表した。それは、ドイツ企業・デリバリーヒーロー傘下の料理宅配サービス「Foodpanda(フードパンダ)」の台湾事業を9億5000万ドル(約1500億円)で買収することだ。
日本でも、外出・外食自粛のコロナ禍で急成長したフードデリバリー市場。街にはサービス運営会社のリュックを担いだ自転車やバイクが行き交っている。家にいながら食べ物が届くという便利さは、自由に外出できるようになっても手放せない。
隆史さん(63歳)は日焼けも美しく、筋肉質で明るい容姿をした男性だ。60歳の定年前から現在までの7年間、フードデリバリーサービスの配達をしている。定年後は月30万円を得ることもあるという。「配達の副業を始めるまでまで、体重80キロの白豚だったんですよ」と笑う。
屈折した万年課長で役職定年を迎える
隆史さんは、60歳で定年するまで、精密機器関連の企業の管理部門で働いていた。
「父がパソコンの原型となる電算機の開発に関わっていたこともあり、情報工学に対して幼い頃から興味があったので理工学部に進学しました。今、パソコンというと情報を収集するツールとしての側面が大きい……というか、今はスマホですね。ウチの長男(30歳)も仕事以外ではパソコンは使わないといいます。お嫁さんに至っては、スマホしか使わない。ノートパソコンを開いて、起動するまでの10秒が耐えられないそうです」
パソコンは隆史さんの人生にとって大きな意味を持つ。
「1760年に産業革命が始まり、僕が1960年に生まれた。この200年の間、本筋から離れた管理や計算などの雑務に、多くの人手を使っていたと思うんです。それを圧倒的に圧縮できるのはパソコン。あらゆる面倒なことから解放される情報革命機器という意気込みがあり、都内の国立大学に進学して、トップの成績で卒業しました」
大手企業に入るも、誰よりも詳しい知識と、アクの強さを持つ隆史さんは嫌われた。
「圧倒的に傲慢だった。今、思い出しても顔から火が出るほど。会議で上司を罵倒し、営業の席では自説をぶちまけて、“どんだけお前は偉いんだ”と怒鳴られても気にしなかったんです。僕は専門知識を持つエースで入社したのに、半年で開発にトバされました」
以降、工場の生産管理ほか、複数の部署にたらい回しにされた挙句、落ち着いたのは在庫管理部門だった。
「皮肉なことに、パソコンの優秀さを痛感する部門でした。僕の人生計画では、海外支局に移転になり、海外で営業をしまくって、赴任先の国を豊かにすることが夢だったんです。でも上司に徹底的に嫌われて、その道はすぐに閉鎖。今、配達員をやっており、今の気持ちがあれば、もっと人生は変わっていたんだと思います。屈折した万年課長で定年を迎えて、“俺の人生はなんだったんだろうか”と思うこともありましたよ」
それでも会社を辞めなかったのは、安定していて給料がいいから。
「工場で働くわけでもなく、営業で苦労するわけでもなく、会社に行って与えられたことを行なっているだけで、いい給料がもらえましたから。それに、出世コースから離れると楽なんですよ。高望みしなくなるので、程よく諦めて生きられるから」
【傲慢さは夫婦関係にも及び、熟年離婚……次のページに続きます】