最近、パソコンやスマートフォンの普及により、⾃ら字を書く機会はめっきり減少してきました。その影響からか「読める、けれども、いざ書こうとすると書けない漢字」が増えていませんか? 以前はすらすらと書けていたのに、と書く⼒が衰えたと実感することもあります。
この記事を通じて、読むこと・書くこと・漢字の意味を深く知り、漢字の能⼒を⾼く保つことにお役⽴てください。
「脳トレ漢字」今回は、「固唾」をご紹介します。慣用句で耳にすることの多い言葉ですが、漢字の成り立ちやその背景を考えながら漢字への造詣を深めてみてください。

「固唾」は何と読む?
「固唾」の読み方をご存じでしょうか?
正解は……
「かたず」です。
『小学館デジタル大辞泉』では「緊張して息を凝らしているときなどに口中にたまるつば」と説明されています。
多くの場合、「固唾をのむ」という慣用句の形で使われます。これは、「事の成り行きを、緊張したり心配したりしながら、息を凝らして見守るさま」 を表します。「手に汗握る」という表現も近い状況を表しますが、「固唾をのむ」は、より息を潜め、静かに状況の推移を見つめているニュアンスが強いでしょうか。
「固唾」の由来
「固唾」の語源には諸説ありますが、一般的には、人が極度に緊張した際の生理的な反応に由来するといわれています。
強いストレスや緊張を感じると、交感神経が優位になり、唾液の分泌が抑制されたり、粘り気が増したりすることがあります。口の中がカラカラに乾いたり、ネバネバしたりする感覚、経験がある方もいらっしゃるでしょう。この、緊張によって分泌が減り、固くなったように感じられる唾液のことを「固唾」と呼んだ、という説が有力です。
そして、「固唾をのむ」という行為は、その「固唾」を、息を殺してごくりと飲み込む様子を表しています。緊張のあまり、他の動作は止まり、ただ息を凝らして事態を見守りながら、無意識に喉を鳴らして唾を飲み込む……そんな情景が目に浮かぶようですね。
「固唾をのむ」瞬間、共有する思い
私たちが「固唾を呑む」のは、一体どのような時でしょうか。ドラマや映画のクライマックス、世界的なニュース速報、また、サッカーのワールドカップやWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)などでは、日本中が「固唾をのんで」勝利の行方を見守りますね。
これらの瞬間に共通するのは、自分ではコントロールできない事態の成り行きを強い関心や期待、不安をもって見守っている、という点でしょう。そして、多くの場合、その緊張感は一人だけで抱えるものではなく、その場にいる人々、あるいは画面を通して見守る多くの人々と共有されます。

情報が瞬時に、大量に行き交う現代社会において、一つの出来事に皆が注目し、同じようにハラハラドキドキしながら「固唾をのむ」という体験は、ある意味で非常に貴重なものになっているのかもしれません。
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いかがでしたか? 今回の「固唾」のご紹介は、皆さまの漢字知識を広げるのに少しはお役に立てたでしょうか? 言葉の由来を知ると、日常何気なく使っている慣用句も新鮮に感じられますね。
参考資料/
『デジタル大辞泉』(小学館)
『日本大百科全書』(小学館)
『新漢語林』(大修館書店)
●執筆/武田さゆり

国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com
