老舗菓子屋の若き主人が魅せる儚く美しい菓子

堅い蕾(つぼみ)が開きかけた姿を表す。練り切り製。

紅色に白の練り切りを重ねた、満開の桜。

ういろう製の桜の着物の裾から餡が覗く。
大正12年(1923)創業の『青山紅谷(べにや)』が外苑前の緑地に面した新店舗に移転し、甘味処も併設したのは2年ほど前のこと。
「和菓子は季節を表現するものが多いです。早朝に仕込みのため店に来て、帰る頃には外は真っ暗。その間一度も外を見ていない、というのではなく、つくり手も外の景色を意識して見られるような店にしたかったのです」
そう語るのは、4代目の青木龍之介さん(31歳)だ。ふんわりと炊きたての小豆の香りが広がる店内に足を踏み入れると、小窓越しに青木さんとご両親が菓子をつくる様子を窺うことができる。作業をしながら来店客と挨拶ができる
だけでなく、店の外に広がる四季折々の景色を青木さんに届けてくれる小窓である。
都会だからこそ、意識して季節を感じるようにしているという青木さんがつくる和菓子は、日本の美意識をまとっている。たとえば桜の季節の和菓子。白い花弁にほのかに紅をさしたような日本古来の桜が見せる、咲き始めから散っ
た後の気配まで、いくつもの表情が映し出されている。
満開から名残まで楽しむ

きんとんで舞い散る桜を表現。中は粒餡。

桜色に染まる水面は、柔らかな羽二重餅で。

新緑に名残のひとひらをのせた、ういろう。
練り切りやういろう、きんとん、羽二重餅など、和菓子の種類は多く、味、見た目、食感も異なる。青木さんが供する桜の和菓子「花筏」で羽二重餅が使われるが、
「卵白を混ぜた餅の練り加減が難しく、今でもつくっていると修業先の師匠の顔が頭に浮かびます」と若き店主は気をひき締める。
「日本人は満開の桜を愛でるだけでなく、ああ今年も桜が咲いたなとか、花吹雪が綺麗だなとか、新緑の中にひとひらの花びらが舞う様子に桜を惜しみます。そうした桜にまつわる情景をどう表現するか。考えるのもまた楽しいのです」
桜の季節になると、店には桜の枝が配される。大きなガラス張りの窓に面した店内の席からは、庭に植えられた和菓子に因む草木を、四季を通して愛でることができる。
「慌ただしい日常の中、家でゆっくりお茶と和菓子を楽しむ時間も少なくなってきていると思います。甘味処も備えていますので、季節を感じながらゆっくりとした時間を過ごしていただきたいですね」


青山紅谷


東京都港区南青山2-17-11
電話:03・3401・3246
営業時間:10時30分〜17時(最終注文は16時30分)
定休日:月曜、火曜
交通:地下鉄銀座線外苑前駅から徒歩約5分
取材・文/平松温子 撮影/寺澤太郎

