マネジメント課題解決のためのメディアプラットホーム「識学総研(https://souken.shikigaku.jp)」が、ビジネスの最前線の用語や問題を解説するシリーズ。
リテンションマネジメントとは、企業において優秀な人材を長期的に確保し、組織の生産性や効率性を向上させるための取り組みを指します。この概念は、離職を防ぐだけでなく、社員一人ひとりの能力を最大限に引き出すことを目的としています。識学の観点から、リテンションマネジメントの基本原則と具体的な実践方法について解説します。
目的と役割責任を明確に設定する
従業員が組織に深く関わり長期的に活動していくには、組織の目的を明確にして従業員と共有することは必要不可欠です。かつ、日々の活動の中でその目的に基づいた意思決定が組織内でなされているかが重要になります。目的が共有されていない、もしくは目的に基づいた意思決定がされていない組織は日々の業務の意図が不明確になるため、「ルールだからやりました」「言われたからやりました」というような表面的なことが重視されるようになります。
また、個々の仕事が組織の目標達成に繋がっているということを上位者が言葉に出してフィードバックすることも部下の迷いをなくす上で効果的です。
社員が自分の役割や責任を曖昧に感じると、当然ながら不安や不満が生まれやすくなります。識学では、「役割の明確化」を組織運営の重要なポイントとしています。以下の方法が効果的です。
・役割定義を設定:各従業員に対して、自分が担当する業務と期待される成果を具体的にします。従業員は設定された成果を出すことを起点に自身の行動を考えていきます。
・責任範囲の明確化:組織全体の目標を分解し、個々の業務がどのように貢献しているかを説明します。これにより、社員は自分の仕事の意義を理解し、自分なりのやりがいやモチベーションを高めることができます。
適切な評価とフィードバックを行う
社員が組織に貢献していると感じられる組織にするためには、公正で透明性のある評価が不可欠です。識学では、評価の基準を明確化し、結果に基づくフィードバックを重視します。
・定量的な評価基準を設定する:感覚的な評価ではなく、認識のズレない事実や根拠となる数値や具体的な成果に基づいた基準を設定することが効果的です。
・定期的なフィードバックを実施する:評価結果を共有し、改善点や成功点を具体的に伝えます。
評価とフィードバックは、社員の成長を促進すると同時に、企業との信頼関係を深める手段となります。注意点としては、フィードバックのサイクル期間です。半年に1回、年に1回の評価しかない企業で、そのまま運用するとフィードバックも半年に1回、年に1回となります。人間同士のコミュニケーションのため、特に最初は月単位でフィードバック出来るとより効果的です。
組織文化と環境の整備
働きやすい環境と一体感のある組織文化は、社員の定着率を高める上で重要な要素です。識学の観点から、以下のポイントを押さえると効果的です。
組織で定められた重要ルールを徹底することは非常に重要です。組織全体で徹底されているルールが組織文化をかたちづくります。組織文化は意図してつくるのが効果的です。また、全員の守るべきルールの基準が揃うことにより不公平感が減少し、社員の所属意識の醸成や安心して働ける環境が整います。
その観点から、以下のような文化を構築するルール設定は波及効果を考えるとより効果的です。
・心理的安全性や意見受け入れに関するルール:社員が意見を発言しやすい、または上申しやすい環境をコミュニケーションルールとして明確にすることで、従業員が不必要な気を遣うことなくコミュニケーションを進めて行く組織文化を醸成していきます。
・ワークとライフのバランスに関するルール:フレックスタイムやリモートワークの導入や、その制度を有効に活用できるようなルールを設定することで、社員が柔軟に働ける仕組みを整えます。
「ルール」という具体も大事ですが、抽象度高く包摂出来る「方針」の明文化も有効です。重要な観点はすべてのルールに正解があるのことではなく、組織としての方針を明文化することで大きな方向性がクリアになることです。
キャリア支援と成長機会の提供
社員は、自分の成長やキャリアの進展が感じられない場合、組織への魅力を失いやすくなります。識学では、個人の成長を促進することが組織の成長につながると考えます。
・スキルアップの機会を提供する:研修プログラムや資格取得支援を充実させます。これも前述のようにそれぞれ個別なものとして存在するのではなく、目的に沿ったものにしていきます。
・キャリアパスを明示する:社員がどのようにキャリアを進められるか、具体的な道筋を提示します。
これにより、社員は自身が組織に所属することの有益性を明確に認識出来るようになり、組織内での成長を実感しやすくなります。
離職リスクの早期発見と対応
離職の兆候を早期に察知し、適切に対応することも重要です。識学の「状況認識」の考え方を応用し、以下の対策を取ると効果的です。
・定期的な面談を実施する:社員の満足度や課題を定期的にヒアリングする場を設定します。機会をルールで設定しておくことは効果的です。先が自分の中で見通せなくなった部下には迷いが発生します。この点をクリアな状態に導くことは上司として有効です。
・データを活用した分析:離職率や従業員満足度のデータを定期的に分析し、リスクを特定します。
社員の悩みや不満を早めにキャッチし、適切な改善策を講じることが離職防止につながります。このようなデータを上司がタイムリーに活かす環境を作れると日々のマネジメントに活かすことが出来ます。
それぞれの上司が個別にデータを管理することは人員的に難しいため、人事部等がこういったマネジメントの材料を管理し、上司のマネジメントの武器としてサポート出来ると組織的な強みを活かすことが可能です。
まとめ
リテンションマネジメントは、社員の離職を防ぐだけでなく、個人の能力を最大限に引き出し、組織全体の成長を促進するための重要な取り組みです。識学の観点からは、明確な役割の設定、公正な評価、組織文化の整備、成長機会の提供、そして早期のリスク対応が鍵となります。しかしながら、言うが易しという側面もあり、組織として継続運用していく体制を地道に整えていくことが必要です。
これらを実践することで、企業は魅力的な職場環境を提供し、人材の定着率を向上させるというサイクルをつくることができるでしょう。
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