ライターI(以下I):先日、『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の第1回試写が行なわれました。
編集者A(以下A):予告編などでも流されていますから言及しますが、冒頭、江戸を襲った大火の場面から始まります。火のシーンです。私はこの場面を見て、40年以上前の大河ドラマ『草燃える』(1979)の冒頭のシーンを思い出しました。
I:それはまた古い話ですね。
A:『草燃える』では、第1回冒頭、治承元年(1177)、平家全盛の時代に、数百人の死者をだした大火に見舞われ、屋敷が燃え盛る場面から物語がはじまりました。燃えさかる火が、当時小学4年生だった私に強烈なインパクトを与えました。「ひとつの時代が終わりかけている。保元・平治の乱からすでに20年。平家にあらずんば人にあらずとまでいわれた平家一門の隆盛もようやくそのかげりをみせ始めていた」――。ナレーションは今も『噂の東京マガジン』で健在の森本毅郎さん(当時NHKアナ)でした。
I:そうなんですね。ですが、それが『べらぼう』の明和9年の大火となにか関係があるのでしょうか。
A:『草燃える』の総合演出は大原誠さんという方が務めています。大河ドラマのレジェンドともいうべき存在で、大河ドラマの第1作『花の生涯』(1963)で演出助手を務めた後に、『樅ノ木は残った』(1970)、『元禄太平記』(1975)、『風と雲と虹と』(1976)、『草燃える』、『徳川家康』(1983)、『八代将軍吉宗』(1995)、『元禄繚乱』(1999)の制作にかかわっていました。私の愛読書である『NHK大河ドラマの歳月』の著者でもあります。
I:同時期のNHKには、和田勉さんや深町幸男さんなどドラマ演出の「大家」がいましたが、彼らに匹敵する存在だったのですね。でもなぜ、その大原誠さんの話題が出て来るのでしょうか。
A:実は、大河ドラマのレジェンド大原誠さんにはNHKに入局した息子さんがいて、大原拓さんといいます。その大原拓さんが、『べらぼう』で第1回の演出を務めておられるのです。
I:!!! 大河ドラマの親子鷹ということなんですね。
A:はい。大原拓さんは、『軍師官兵衛』(2014)、『麒麟がくる』(2020)で大河ドラマに関わっています。当欄は2020年から連載を開始していますから、レジェンドの息子さんということで、大原拓さんの存在は認識していました。その大原拓さんが関わる『べらぼう』の冒頭が明和9年の大火。『草燃える』の冒頭を思い出さないわけがありません。
I:1979年から2025年。46年の時を経ているわけですね。
A:この間、映像技術の進歩は目覚ましく、『べらぼう』ではVFX(ビジュアルエフェクツ)を駆使した迫力ある映像に仕上がっています。これは凄い。
I:しかも完全VFXではなく、実際の「火」を効果的につかっているそうですね。先日行なわれた第1回試写会後の会見では、蔦屋重三郎役の主演の横浜流星さんにも実際に火の熱さを感じてもらいたかったから、安全を期しながら実際の火も使った、と大原拓さんがいっていました。
A:大河ドラマのレジェンド大原誠さんの息子さんが半世紀近い時を経て、燃え盛る火をドラマの冒頭に持ってくる。本当に感慨深い。涙が出そうな思いです。
I:あらあら。
A:46年前の『草燃える』では石坂浩二さんが源頼朝役で活躍しました。その石坂浩二さんが『べらぼう』では老中首座の松平武元(たけちか)役で出演します。なんという粋な演出でしょうか。
I:大河ドラマのオールドファンにとって、別の楽しみ方があるということですね。
A:願わくば、『草燃える』の冒頭のシーンを再放送してほしいですね。さすれば、46年の時を経て、つながれる「親子の襷」の全貌が明らかになるのではないでしょうか。
●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ べらぼう 蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり