正しい意味を理解し、適切に漢字が使えているのか、疑問を感じることが増えていませんか? 適当に漢字を使ってしまい、気付かないところで「恥をかいている」ということがあるかもしれませんね。
Google 先⽣やデジタルデバイスの出現により、便利になった反⾯、情報の中⾝については⼗分な吟味が必要な時代になっております。あなたの“漢字の知識”は確かでしょうか? もう⼀度、確認しておいても良いかもしれません。
「脳トレ漢字」第227回は、「戯れる」をご紹介します。「ふざける」という意味として使われることが多いですが、ほかにも複数の意味があります。実際に読み書きなどをしていただき、漢字への造詣を深めてみてください。
「戯れる」とは何とよむ?
「戯れる」の読み方をご存知でしょうか? 「ぎれる」ではなく……
正解は……
「たわむれる」です。
『小学館デジタル大辞泉』では、「遊び興じる。何かを相手にして、おもしろがって遊ぶ。」「ふざける。また、冗談を言う。」「みだらなことをする。また、男女がいちゃつく。」と説明されています。「じゃれる」「ふざける」という意味として使われる、「戯れる」。
古典の世界では、「趣がある」「機転が利く」という意味として使われることもあるそうです。また、「ざれる」「じゃれる」という読み方もあります。
「戯れる」の漢字の由来は?
「戯」の「虚」は「むなしい」という意味があり、「戈」は武器として使われる「ほこ」のことを言います。この二文字が合わさることで、「実戦用ではないおもちゃのほこ」という意味になり、これが転じて「ふざける」「遊ぶ」という意味が生まれたと考えられます。
光源氏と夕顔
かつては、「趣がある」という意味として使われていたとされる、「戯れる」。『源氏物語』第4帖「夕顔」でも、この意味として使われています。夕顔は、源氏が17歳の頃に出会った女性です。病に伏した乳母の見舞いに訪れた源氏は、ふとしたきっかけで、隣家に隠れるように住んでいた夕顔と逢瀬を重ねるようになります。
才気煥発というわけではなくとも、可憐で穏やかな夕顔の人柄に惹かれた源氏は、ますます彼女にのめり込むようになります。夕顔もまた、源氏を恋い慕うようになったのです。しかし、そんな二人の関係も長くは続きませんでした。物の怪に憑りつかれた夕顔はあっけなく息を引き取ってしまうのです。
夕顔の死を受け入れられず、しばらく何も考えられなくなった源氏。その後、夕顔が頭中将(とうのちゅうじょう、源氏の義兄)の側室であったこと、そして、二人の間にまだ幼い娘がいたことを知ります。娘の名は玉鬘(たまかずら)で、母に似て美しく成長した彼女と出会った源氏は、再び夕顔の面影を見ることとなるのです。
***
いかがでしたか? 今回の「戯れる」のご紹介は、皆さまの漢字知識を広げるのに少しはお役に立てたでしょうか? 夕顔の葬儀を終えた源氏は、「見し人の 煙を雲と 眺むれば 夕べの空も むつましきかな」という歌を詠みました。
現代語訳すると、「あの雲を、愛しい人を火葬した煙だと思うと、この夕空も親しみ深く思えるものだ」という意味になります。作者の紫式部は、夫の藤原宣孝(ふじわらの・のぶたか)が亡くなった際にも、これに類似した歌を詠んでいます。彼女は、夕顔を亡くした源氏と、夫に先立たれた自分自身を重ねたのかもしれません。
文/とよだまほ(京都メディアライン)
HP:https://kyotomedialine.com FB
参考資料/『デジタル大辞泉』(小学館)
『日本国語大辞典』(小学館)
『日本大百科全書』(小学館)