文/印南敦史
著者によれば、『免疫アップの最強セットリスト -自分で選ぶ健康寿命の延ばし方-』(飯沼一茂 著、ワニブックス)のテーマは「なにをすれば免疫で健康寿命を延ばせるか」なのだそうだ。
具体的には、医学的な知識や理論をわかりやすく説明し、日々の生活で取り入れれば効果が望めそうなことを提案しているのである。
免疫のバランスが崩れると、体内には慢性的な炎症状態が起きやすくなる。そして慢性炎症が続くことで、生活習慣病、がん、神経変性疾患(認知症、アルツハイマー病など)、自己免疫疾患(慢性関節リウマチなど)、動脈硬化症といった病気のリスクが高まるわけだ。
だが逆にいえば、免疫システムのバランスを維持することで、感染症を予防するだけでなく、健康を害するほとんどの病気を予防することができる。また、健康バランスを取り戻す生活習慣によって、治療を効果的にすることもできるようだ。
そこで本書では、免疫機能を高め、自然治癒力を向上させるためのトピックスを紹介しているわけだが、ユニークなのはそれらを「セットリスト」としてまとめている点である。
ご存知のようにセットリストとは、ミュージシャンがライヴ・コンサートを行う際の演奏曲を順番どおりに表示したもの。これを「一覧」と捉え、(1)心のゆとり、(2)栄養、(3)運動、(4)休息・睡眠、(5)体温の維持という5項目に分けて解説しているのだ。
ここではそのなかから、(1)「心のゆとり」に焦点を当ててみよう。
なお、ここでいう「心」とは、おもにストレスのコントロールに関することだという。たとえば精神的に余裕がなければ、食欲がなくなって栄養が充分に摂れなくなるだろう。運動をしようという余裕もなくなり、眠れなくなってしまう可能性もある。そうなると当然ながら、安定的な生活習慣も維持できなくなってしまうわけだ。
精神的なストレスがあると脳の自律神経に刺激が入り、本来、交感神経と副交感神経のバランスが取れていた状態から次第に交感神経が優位になっていきます。
そして、ホルモンも副腎皮質からアドレナリンやノルアドレナリンが分泌され、免疫は抑制されてしまいます。
また、脳下垂体に刺激が入り、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が副腎皮質からコルチゾールを分泌させるようになり、こちらも免疫抑制状態となります。この結果、自然治癒力の全体のバランスが崩れてしまいます。(本書30〜31ページより)
ストレスは免疫系に影響を与えることがあるため、ストレスを軽減する方法を見つけることは、免疫系の健康維持につながる。したがって自分なりのリラックス方法やストレスマネジメント技術を確立することが、ストレスを減らすためには重要なのだ。
著者が紹介している一般的なストレス解消法は以下のとおり。
(1)深呼吸と瞑想:深呼吸や瞑想を行うことで、自律神経のバランスが整い、リラックスできるようになる。日常の短い休憩時間に試してみるだけでも効果があるようだ。
(2)適切な睡眠:睡眠不足はストレスの原因になるため、充分な睡眠を確保するべき。規則的な睡眠スケジュールを設定し、快適な寝室環境を整えることが大切だという。
(3)運動:適度な運動はストレスホルモンの分泌を抑え、幸福感を高めてくれる。ウォーキング、ヨガ、水泳など、自分に合った運動を見つけるといい。
(4)バランスの取れた食事:健康的な食事はストレスへの対処能力を向上させる。適切な栄養素を摂取し、過剰なカフェインや糖分を避けることも大切だ。
(5)時間の管理:タスクや予定を計画的に管理し、適切な時間にリラックスしたり、休憩を取るべき。長時間の働きすぎは、ストレスを増加させることがあるからだ。
(6)趣味や興味を持つ:趣味や興味を持つことも、ストレスの解消に役立つ。そこで自分の楽しみを見つけ、時間を楽しく過ごそう。誰かのファンになって応援する「推し活」もいいようだ。
(7)ソーシャルサポート:友人や家族との交流を大切にし、感情やストレスをシェアすることも大切。いろいろなことを抱え込んでしまう方も少なくないが、助けを求めることは強さの証でもあるのだ。
(8)ストレスマネジメントを学ぶ:ストレスに対処するためのテクニックを学ぼう。認知行動療法やマインドフルネス瞑想などが役立つ場合もあるという。
(9)休暇や休息:定期的な休暇や休息をとり、リフレッシュすることもお忘れなく。仕事や日常生活から離れることは、ストレスの軽減に効果的だからだ。
(10)専門家の支援:専門家の支援はストレスの管理に役立つだけに、必要であれば心理療法やカウンセリングを受けることも検討したい。とくに過労によるストレス過多は、自覚しないうちに深刻な状況になっていることがある。それを避けるために、専門家に相談することもときには大切なのだ。
食の好みが人それぞれ異なるように、ストレス軽減法にも人によって「合う・合わない」があることだろう。だが、これらのなかからピンときたもの、続けられそうなものを試してみるだけでも、たまる一方のストレスを軽減できるかもしれない。
文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。