京料理や野菜、湯葉、豆腐、和菓子など京の食材が上質さを保ちながら発展するのは、地下深くにたゆたう清らかな水の力といっても過言ではない。古から都を潤してきた京の水は、今も満ちて京の食を高めていく。
喜幸|京の風物詩ともいえる鮎料理 さわやかな香りが押し寄せる
鮎漁が解禁されると、10月末まで暖簾をくぐる客が後を絶たない。それほどまでに、西木屋町にある『喜幸(きいこ)』の鮎料理は、風物詩のように京都の人々に親しまれている。創業75年という歴史を誇るこの店は、現店主の浅井喜美代さんの父が家業の豆腐店『近喜』の豆腐と、鴨川で獲れる川魚を食べさせる店として開業した。洒脱な空気感があるのに、気張らず過ごせる。そんな店のあり様に惹かれ、開高健や梅原猛といった、食にうるさい文化人も足しげく店を訪ねたそうだ。お目当てはもちろん、店主が自ら獲る川魚料理である。
「父に学び、川魚漁を続けています。私が漁にでるのは、主に投網を打つ10月になってから。それまでは鮎漁名人がその日釣った分を届けてくれはります」と浅井さん。生簀には、綺麗な鮎が泳いでいる。
ここで食べられる鮎料理は多彩である。一番人気の塩焼きのほか、唐揚げや南蛮漬け、せごしや洗い。ここで初めて鮎の美味しさを知った人も多い。塩焼きに添えられる蓼酢は、鴨川畔でとれた蓼で作る。
「なんや知らんけど、鮎の時季になると蓼がようさん生えてくるんです」。秋からは鱧を中心にまた違う味の楽しみもあるが、この時季ならではの鮎は、ほかにはない野趣をもたらしてくれる。
喜幸
京都市下京区西木屋町通四条下る船頭町202
電話:075・351・7856
営業時間:17時~21時30分(最終注文)
定休日:月曜、火曜
交通:阪急京都線京都河原町駅下車、徒歩約5分