京料理や野菜、湯葉、豆腐、和菓子など京の食材が上質さを保ちながら発展するのは、地下深くにたゆたう清らかな水の力といっても過言ではない。古から都を潤してきた京の水は、今も満ちて京の食を高めていく。

喜幸|京の風物詩ともいえる鮎料理 さわやかな香りが押し寄せる

「鮎の塩焼き」1500円~。まるで泳いでいるかのような躍動感ある姿。鴨川辺で摘む蓼で作る、爽やかな蓼酢とともに。

鮎漁が解禁されると、10月末まで暖簾をくぐる客が後を絶たない。それほどまでに、西木屋町にある『喜幸(きいこ)』の鮎料理は、風物詩のように京都の人々に親しまれている。創業75年という歴史を誇るこの店は、現店主の浅井喜美代さんの父が家業の豆腐店『近喜』の豆腐と、鴨川で獲れる川魚を食べさせる店として開業した。洒脱な空気感があるのに、気張らず過ごせる。そんな店のあり様に惹かれ、開高健や梅原猛といった、食にうるさい文化人も足しげく店を訪ねたそうだ。お目当てはもちろん、店主が自ら獲る川魚料理である。

温かな雰囲気の店内。昭和の小料理屋の粋な空気感が満ちている。
生簀で泳ぐ鮎をタモで素早く引き上げ、すぐに串を刺して焼き場へ。その手際の見事さに見惚れる。
「鮎の洗い」2000円~。蓼酢味噌を付けて味わう。サクッと揚がった骨煎餅も付く。

「父に学び、川魚漁を続けています。私が漁にでるのは、主に投網を打つ10月になってから。それまでは鮎漁名人がその日釣った分を届けてくれはります」と浅井さん。生簀には、綺麗な鮎が泳いでいる。

ここで食べられる鮎料理は多彩である。一番人気の塩焼きのほか、唐揚げや南蛮漬け、せごしや洗い。ここで初めて鮎の美味しさを知った人も多い。塩焼きに添えられる蓼酢は、鴨川畔でとれた蓼で作る。

「なんや知らんけど、鮎の時季になると蓼がようさん生えてくるんです」。秋からは鱧を中心にまた違う味の楽しみもあるが、この時季ならではの鮎は、ほかにはない野趣をもたらしてくれる。

喜幸

手描きの品書きが並ぶ。夏から秋は鮎と鱧(はも)。

京都市下京区西木屋町通四条下る船頭町202
電話:075・351・7856
営業時間:17時~21時30分(最終注文)
定休日:月曜、火曜 
交通:阪急京都線京都河原町駅下車、徒歩約5分

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