文/鈴木拓也

「終活」が流行語大賞を受賞して10年あまり。今やすっかりなじみのある言葉となった。

その語感から、遺産のことなどを最晩年に決めるという印象がある。しかし、専門家によれば、それよりもずっと早く、50代あたりからスタートするのが望ましいという。

くわえて、当事者だけでなく子どもも、親の終活をサポートする必要が出てくる。例えば、親が認知症を患った場合、介護はもちろんのこと、資産や保険の扱いはどうすべきか? そうした課題が、子どもにも降りかかってくるのである。

そうした、終活にまつわるさまざまな事柄を1冊にまとめたのが、先般刊行された『相続・遺言・介護の悩み解決 終活大全』(福村雄一編著/Gakken https://hon.gakken.jp/book/2080224400)だ。

その一部を、今回は紹介しよう。

認知症になったら金銭管理はどうするのか?

「認知症になって銀行口座が凍結」というトピックの記事を時折目にする。

本当に凍結されて、お金を引き出せなくなるのだろうか?

本書によれば、認知症の症状に応じて、支障ないこともあるし、やはり引き出せなくなることもあるという。

そもそも、認知症と診断されたからといって、そのことを金融機関に申告する義務はない。症状が軽く、ATMの操作や窓口での受け答えに問題がなければ、引き出しは行える。

これが、日常的に受け答えが難しい段階になり、金融機関の担当者が、判断能力がないと見てしまうと、口座自体をロックすることはあるという。こうなってしまうと、本人でもお金の引き出しが困難になる。

ただし現状、認知症が進んだ患者の多くは、家族にキャッシュカードを持たせ、お金の管理をしてもらっている点を、著者は指摘する。

しかし、これは別の問題をはらむ可能性もある。

例えば、子ども同士が不仲で、親と仲のよい1人がキャッシュカードを預かっている場合。親が亡くなって相続の手続きをする際、キャッシュカードを持ってない方が、「本当はこれくらいお金が残っているはず」などと主張するトラブルが起こるかもしれない。

また、それ以前に、自身がおひとり様で、安心してキャッシュカードを預けられる人がいないこともあるだろう。

これに対し、有効な方法として取り上げているのが、成年後見制度だ。これは、成年後見人が、本人に代わってお金の管理や事務手続きを代行してくれるという制度。成年後見人は、家庭裁判所が選任した人がなり、たいがいは司法書士といった専門家となる。有償であるが、成年後見人が責任をもって、金銭管理や諸手続きを代行してくれる。

他にも、任意後見や家族信託といった制度もあり、終活にあたってぜひとも検討しておきたい項目の1つとなっている。

葬儀・墓じまいについても検討する

終活にあたっては、自分自身が亡くなった直後のこと、つまり葬儀についても検討しておく必要がある。

葬儀にもトレンドがあって、近年は「より小さく、より簡素に」なってきており、コロナ禍がそれに拍車をかけたという。具体的には、家族だけが参列する家族葬や、通夜を省いた一日葬が増えており、葬儀費用の金額は減る傾向にある。このことは、意識しておいてもいいだろう。

どんなスタイルの葬儀にせよ、自分で自分の葬儀を執り行うことができないので、元気なうちにどんな葬儀にしてほしいか、委ねる相手に詳しく伝えておく必要はある。でないと、亡くなった後、家族だけでなく、お世話になった施設、病院、家主、近所など、思いもかけず、多くの人の手を煩わせてしまう。

もう1つの検討事項は、「墓じまい」をするかどうか。これも年々増え続け、20年前の2倍(約12万件)にのぼるそうだ。背景には、少子超高齢化という時代の変化がある。

実は、墓じまいを含めたお墓の問題は、「家族が切り出しやすいテーマ」なのだという。

親のほうも、「子や孫に負担をかけたくない。私の代で解決しておかないといけない」などと気になっているからだ。ただ、墓じまいをするといっても、親族と話し合って合意する必要がある。子どもの帰省のときなどに、一度その機会を持つのもいいかもしれない。

死亡保険などの見直しも忘れずに

もう1つ忘れてはならないのは、保険の見直しだ。

定年退職や子どもの独立といったタイミングで、新たな保険に加入すべきかなど、考えてみることを著者はすすめている。

特に、高齢になってからの民間の医療保険の加入には注意が必要。 75歳以上の後期高齢者であれば、病院での窓口負担は1割ですむし、十分な預貯金があれば「保険は必要ない」としている。

逆に加入するのであれば、80歳頃がリミットとなる。差額ベッド代など、公的な医療保険では賄えない費用は何か、どれぐらいかかるかを事前に確認してから判断することになる。

さらに死亡保険も検討する。保険料を一括で払う一時払い終身保険や平準払いの終身保険など、保険会社や保険の種類によって、さまざまな選択肢がある。

いずれにせよ、保険に加入する主な目的は、自身の葬儀代や相続税の対策だろう。預貯金があるといっても、死亡時において口座を凍結されることがあり、葬儀費用や相続税を負担する人を受取人として、死亡保険を設定しておくことも重要になってくる。

* * *

上でまとめた話は、本書で説かれる終活のほんの一部にすぎない。親も子も、考えておくべきこと、やっておくべきことは、意外なほど多岐にわたる。だから著者は、「80歳からの就活で遅すぎる」と釘を刺す。人生の最終段階に差しかかって、あわてふためくことのないよう、本書をチェックリストとして活用してみてはいかがだろう。

【今日の定年後の暮らしに役立つ1冊】
『相続・遺言・介護の悩み解決 終活大全』

福村雄一著・編集
定価1650円
Gakken

文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。

 

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