東海道新幹線開業告知(1964年)

東海道新幹線開業時の告知ポスター。当初の所要時間は最速で4時間だが、翌年10月のダイヤ改正で「ひかり」は3時間10分、「こだま」は4時間に短縮された。右下に開業とともに作られた3つの新設駅が記されている。写真/鉄道博物館

首都圏と関西を結ぶ鉄道の大動脈、東海道新幹線が開業して60年、この間の利用者は70億人に上るという。2023年のデータによると、東京~新大阪間を行き交う1日の列車本数は372本(※『JR東海 新幹線・在来線メディア総合案内』(2024年度版)より。)、新幹線はいつでも乗れる交通インフラとして定着した。

今や日常生活に欠かせない存在の東海道新幹線であるが、ここではポスターでその時代背景と果たした役割を振り返ってみたい。

1964年の開業の告知ポスターには、東京~新大阪間が「ひかり号」で4時間、「こだま号」で5時間とある。それまでは東海道本線の特急で最短6時間30分を要したので、まさに「夢の超特急」の誕生を告げていた。

国鉄時代に「ディスカバー・ジャパン」(1970 ~72年)などのキャンペーンがたびたび行なわれたが、新幹線に特化したものではなかった。新幹線がキャンペーンの対象として大々的に登場するのは、1987年、国鉄の分割民営化時のことである。

きっかけは、1985年に放送された『シンデレラ・エクスプレス ── 48時間の恋人たち』というテレビ番組であった。日曜日の夜、東京駅の東海道新幹線のホームで新大阪行き最終の「ひかり」の前で別れを惜しむ恋人たちの姿を追ったドキュメンタリーだ。国鉄の民営化と同時にこの遠距離恋愛をモチーフとした、テレビCMが制作され一大キャンペーンが打たれた。JR東海とすれば国鉄のイメージを払拭し「東海道新幹線の会社」としてイメージアップを図りたいという思惑もあった。

1987年6月から開始された「シンデレラ・エクスプレス」のポスターには、ガラスの靴を掲げる若い女性が当時最新の100系とともに収まる(下)。

シンデレラ・エクスプレス(1987年)

日曜の夜、東京駅発21時(当時)の最終「ひかり」が出発を待つ。そのホームでは別れを惜しむ恋人たちの姿が見られた。掲げられたガラスの靴は「リニア・鉄道館」(名古屋市・https://serai.jp/news/magazine-news/1202196)に保管されている。

ビジネスイメージの強かった新幹線を人と人をつなぐ「コミュニケーション・メディア」としてとらえた戦略は大成功し、「クリスマス・エクスプレス」に引き継がれる。主に「シンデレラ」がホームでの別れを、「クリスマス」ではイブの夜、離れて暮らす恋人たちの再会を描いた。

クリスマス・エクスプレス(2000年)

2000年に入るとCMに携帯電話が登場、ポスターには1999年に運用が開始された700系のイメージが描かれるなど時代を反映する。再会をテーマに「ひとは、きっと、ひとりじゃない。」のコピーが印象的だ。

30年を超えるキャンペーン

1993年からは「そうだ 京都、行こう。」キャンペーンを開始、四季折々の京都の情景を美しい写真と印象的なコピーで見せてくれる(下2点)。同社広報担当者によると「1年以上前から、伝えたいテーマに応じて対象の寺社などと調整、時代に即して制作している」という。開始から30年を超えても、まだまだ尽きぬ京都の魅力を伝え続けてくれる、東海道新幹線を代表するキャンペーンに成長した。

JR東海では2023年2月から「会いにいこう」キャンペーンを展開している。同社広報担当者は「人と人との出会いを支えている東海道新幹線の役割は、昔も今も変わりません」と語る。

そうだ 京都、行こう。(1993年)

「のぞみ」の運転が増発された1993年秋、現在も続くキャンペーンがスタート。盛秋の蓮華寺も舞台に。書院側から庭園を見ると燃えるような紅葉が、まるで屏風絵のように見える。知られざる京都案内の役割も果たした。

そうだ 京都、行こう。(2024年)

2024年は初夏の蓮華寺を見せる。テーマは「京都がくれる癒し」。1993年とは逆に庭園側から書院を望む構図。紅葉で知られる寺院を青紅葉の時季に訪れ、自分を見つめ直すコピーが添えられる。

取材・文/宇野正樹 協力/JR東海

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