文/池上信次
ジャケットに関する話題を続けます。前回(https://serai.jp/hobby/1195074)までに「ジャケットはアルバムの第一印象を決める、作品の重要な一部」と紹介してきましたが、じつは案外「見ていない」ような気もします。もちろん「ぱっと見」の印象が大事なのですが、それで終わっていることが多いのではないかと。よく見ると気がつかない発見があったりもします。まずはこれを見てください。

演奏:マイルス・デイヴィス(トランペット)、J.J.ジョンソン(トロンボーン)、ジャッキー・マクリーン(アルト・サックス)、ジミー・ヒース(テナー・サックス)、ギル・コギンズ(ピアノ)、オスカー・ペティフォード(ベース)、パーシー・ヒース(ベース)、ケニー・クラーク(ドラムス)、アート・ブレイキー(ドラムス)
録音:1952年5月9日、1953年4月20日
マイルスがタバコを持ってステージに立って、トランペットを吹いている、という写真です。これに異論のある方は……素晴らしい観察眼をお持ちですね。これ、よーく見るとマイルスのトランペットのベルの下に何かあります。これはマイルスの膝です。マイルスは椅子に座って足を組んで演奏していたのでした。ネタバレ写真はこちらです。

立っていればステージに見えますが、座っていればレコーディング・スタジオのイメージです。ジャケット・デザイナーはステージのイメージを出したかったのでしょう。それにしてもマイルス、そしてJ.J.もスタジオでもステージのようなきちんとした服装なんですね。撮影前提の服装であれば、ポーズの注文をつけられなかったのか? 次はアート・ペッパーのジャケットを見てください。

演奏:アート・ペッパー(アルト・サックス)、ラス・フリーマン(ピアノ)、ベン・タッカー(ベース)、チャック・フローレス(ドラムス)
録音:1956年12月28日、1957年1月14日
「モダン・アート」の前に立ち、テーブルに楽器を置いて何やら考えごとをしているアート・ペッパー。はい、これも違います。マイルスがヒントになってしまいましたが、ペッパーも膝を立てています。これは壁の前に立っているのではなく、ソファーの前の床に座っているのですね。なかなか全体は見えていないものです。これがわかってしまうと、ポーズとしてはちょっと変ですから、じつは寛いでいるときに、たまたまむずかしい顔をした一瞬だったのではないかと想像してしまいます。
逆に「何コレ?」という写真で、まず「注目させる」という手法のデザインもあります。

演奏:アルバート・アイラー(テナー・サックス)、セルダン・パウエル(テナー・サックス)、バディ・ルーカス(バリトン・サックス)、バート・コリンズ(トランペット)、ジョー・ニューマン(トランペット)、ガーネット・ブラウン(トロンボーン)、ビル・フォルウェル(ベース)、バーナード・パーディ(ドラムス)ほか
録音:1968年9月5日、6日
サックスのマウスピースとネックの部分というのはわかりますが、どういう構図なのかは「ぱっと見」では理解できません。いや、かなり考えても「なんか変」のままです。『ニュー・グラス』だから、植物にサックスが刺さっているのか? いや、そんなバカな……。この種明かしは裏ジャケにありました。

アイラーの口元をかなりアップにトリミングし、しかも90度回転させて使っていたのでした。すごい発想のデザインです。正体がわかっても、なにか得体の知れない感じが残ります。アルバート・アイラーの「特別感」を表現したということなのでしょう。
ジャケット鑑賞も音楽同様に、ひとつの「鑑賞ジャンル」として十分成り立つのではないでしょうか。
文/池上信次
フリーランス編集者・ライター。専門はジャズ。ライターとしては、電子書籍『サブスクで学ぶジャズ史』シリーズを刊行。編集者としては『後藤雅洋著/一生モノのジャズ・ヴォーカル名盤500』(小学館新書)、『小川隆夫著/マイルス・デイヴィス大事典』(シンコーミュージック・エンタテイメント)、『後藤雅洋監修/ゼロから分かる!ジャズ入門』(世界文化社)などを手がける。また、鎌倉エフエムのジャズ番組「世界はジャズを求めてる」で、月1回パーソナリティを務めている。
