文・写真/角谷剛(海外書き人クラブ/米国在住ライター)
およそ100年前に建造されたイタリアの帆船がロサンゼルス港に寄港し、7月3~8日の6日間にかけて、一般見学者に船内を開放するイベントが行われた。
帆船の名称はアメリゴ・ヴェスプッチ(Amerigo Vespucci)号。15世紀の偉大なイタリア人探検家の名前を冠したものだ。全長約100m、3本のマストを持つ帆船で、「世界で最も美しい船」として知られている。
今回の航海は2023年7月1日にジェノバから出発した。2025年2月の帰港まで1年半以上をかけて西回りに地球を1周する、まるで中世を思わせるような大航海の途中である。世界各地に寄港し、ロサンゼルスの後はハワイ・ホノルルを経て、8月下旬には東京に約1週間滞在する予定だ。
アメリゴ・ヴェスプッチ号はイタリア海軍の練習船として建造され、1931年2月22日に進水した。18世紀の戦列艦を模したとされている。つまり『パイレーツ・オブ・カリビアン』に出てきたような船のことで、いわば建造当時からレトロだったわけだ。
ちなみに横浜市西区みなとみらいに展示されている重要文化財「日本丸」も練習船であったが、こちらの進水は1930年だ。わずかに1年遅れて進水したアメリゴ・ヴェスプッチ号がいかに現役船として古いかを想像できるだろう。日本丸の全長は97mなので、サイズもほぼ同じである。
アメリゴ・ヴェスプッチ号の船内を案内してくれるのは、この練習船に乗り組む現役のイタリア海軍軍人たちだ。公式ウェブサイトによると、乗組員合計414人のうち、士官15名、准尉64名、軍曹および兵員185 名、さらに士官候補生や職員などで構成されているそうだ。
軍人とは言っても、彼らの多くはまだ童顔が残る年齢である。女性も多い。高校生や大学生と言われても、さほどの違和感はない。見学者との記念撮影にもにっこり笑って応じてくれる。質問に答える英語はあまり流暢ではない。
マストをよじ登る、帆を上げ下げする、そんな外洋航海術がハイテク兵器による現代戦にどれだけの軍事的意味を持つかは、筆者にはよく分からない。船内は思いのほか狭く、長い航海中はきっと肉体的にも精神的にもかなり厳しい日々が続くはずだ。
しかし、そんな訓練に明け暮れているはずの「水兵さん」たちは、みな表情がとても明るく、また凛々しく感じられたことは確かである。彼ら彼女らが、ロサンゼルス滞在中に1日でも休日を与えられて、ディズニーランドなどに出かけられたらよいのだが。
アメリゴ・ヴェスプッチ号の存在意義はもうひとつある。ユニセフ(国際連合児童基金)やWWF(世界自然保護基金)などの国際機関と連携し、自然遺産と海洋環境の保護を世界にアピールすることだ。公式ウェブサイトではその外交活動を「旅するイタリア大使館」と表現している。
在日イタリア大使館のウェブサイトにもアメリゴ・ヴェスプッチ号の美しい写真を掲載したページ(https://ambtokyo.esteri.it/ja/news/dall_ambasciata/2024/06/tour-mondiale-2023-2025-della-nave-amerigo-vespucci-tappa-a-tokyo-dal-25-al-30-agosto-2024/)が公開されている。
ロサンゼルス港の埠頭に設けられた特設イベント会場にはアメリゴ・ヴェスプッチ号の写真ギャラリー、イタリアの様々な商業デザインを展示するパビリオン、ギフトショップやエスプレッソ・カフェなども設けられ、ちょっとしたイタリア展のようでもあった。
ロサンゼルス港での見学イベントは入場無料、ただしインターネットでの事前予約が必要だった。次の寄港地ホノルル(7月25~28日)での同イベントも入場無料、こちらは予約も不要とのことだ。東京でのイベント詳細は日程(8月26~30日)は下の公式ウェブサイトで確認してほしい。
アメリゴ・ヴェスプッチ世界一周航海2023-2025公式ウェブサイト https://tourvespucci.it/jp/(日本語、英語、イタリア語)
文・写真 角谷剛
日本生まれ米国在住ライター。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。