文・写真/角谷剛(海外書き人クラブ/米国在住ライター)

惜しくもアカデミー賞受賞は逃したものの、日本を舞台にしたヴィム・ヴェンダース監督『PERFECT DAYS』はアメリカでも好評だった。役所広司演じる主人公、平山が70年代の古い音楽をカセットテープで聴く姿に共感を覚えた人は日米の文化を越えて多かったらしい。

音楽や映像を再生する方法としてはストリーミングが主流になったあとでも、レコード(ビニール盤)、カセットテープ、あるいはビデオカセットのようなアナログ形式メディアの需要は依然として高い。再生するためのハードウェアも必要だ。

映画には平山と後輩が中古カセットテープを売買する店を訪れるシーンがある。そこでは平山が持つ古いカセットテープに彼らが驚くほどの引き取り価格が掲示される。

古いモノのなかには、ある人にとってはガラクタに見えても、ある人にとってはとてつもなく貴重な価値を見出すこともあるのだ。

雑多な古いモノに溢れたアンティーク・ショップ。

カリフォルニア州オレンジ郡オレンジ市にはオールド・タウン(旧市街)と呼ばれる地域がある。ロサンゼルス中心地から南東へ50kmほどの位置だ。そこにはザ・サークルという名の円形をした広場を中心に、大小様々なアンティーク・ショップが軒を連ねている。

なかでも最も有名な建物が「ORANGE CIRCLE ANTIQUE MALL」だ。外観は歴史を感じさせる建物だが、いったん中に入ると、内部は細かく仕切られ、100を越える小さな店がごちゃごちゃと不規則にひしめいている。ひょっとしたら何かしらの規則性はあるのかもしれないが、どうしてもそう見える。

ORANGE CIRCLE ANTIQUE MALL外観。

それぞれの店が扱っているモノも多種多彩だ。洋服、靴、アクセサリー、絵画、書籍、スポーツ用品、おもちゃ、家具、食器、道具、家電、その他何に使うのかよく分からないモノを扱っている店もある。共通していることは「古い」ということ。値段もまさにピンキリだ。

私にとって、と但し書きをするならば、とくに目を引くのが、LPレコード、カセットテープ、ポスター、Tシャツといったエンターテイメント関連の商品である。

私はジョン・レノンが死んだ1980年には13歳であったし、ベルリンの壁が崩壊した1989年には22歳だった。80年代をティーンエイジャーとして過ごした、正真正銘の80年代キッズのひとりである。

マイケル・ジャクソンの『ビリー・ジーン』は空で歌うことができるし、誰も見ていなければ振り付けを真似して踊ることもできる。『USA For Africa』のTシャツを大事に着ていたし、オリジナルの『トップ・ガン』は映画館で10回以上観た。ナイキの人気スニーカー『エア・ジョーダン』の初期モデルには憧れたが、どうしても小遣いが足りなかった。

そんな時代の空気が漂ってくるような懐かしいモノたちが、段ボール箱の中で無造作に詰められていたり、あるいはガラスケースの中に麗々しく陳列してあったりするのだ。

ORANGE CIRCLE ANTIQUE MALL内部。

とくに80年代のモノだけが突出して多いわけではないと思う。単に私がその年代の音楽や映画に馴染んでいるから目につくのだろう。平山が好む70年代の音楽カセットテープだって豊富にあるし、さらに古い時代のモノだってきっとあるはずだ。ジェームス・ディーンのポスターだって、ビーチ・ボーイズのLPレコードだって、私にも価値が分かるモノはたくさんあった。

一生に一度の掘り出しものを見つけられるかもしれないし、あるいは後で後悔するガラクタばかりを買い込む羽目になるかもしれない。価値観はひとそれぞれだ。

少なくとも、アンティーク・ショップは普通のショッピングとは異なる刺激と興奮をもたらしてくれることは間違いない。趣向の変わったお土産を探すことだってできる。

古いモノにはまったく興味がないという人でも、オレンジ旧市街を散策するだけでも楽しいと思う。レトロな外観のカフェやレストランも多く、タイムスリップをしたような気分で半日を過ごすことができるだろう。

オレンジ旧市街ではスターバックスも一味違う。

オレンジ市はディズニーランドやエンゼル・スタジアムがあるアナハイム市のすぐ隣であるし、アンティーク・ショップが集まる旧市街は鉄道(アムトラック)の駅からも徒歩圏内にある交通便利な場所だ。ロサンゼルス観光の際にはついでに立ち寄ってみてはどうだろうか。もちろん、アンティーク・ショップ巡りのついでにロサンゼルスを観光しても一向に構わない。

ORANGE CIRCLE ANTIQUE MALL
118 S Glassell St, Orange, CA 92866
https://orangecircleantiquemall.com/

文・角谷剛
日本生まれ米国在住ライター。米国で高校、日本で大学を卒業し、日米両国でIT系会社員生活を25年過ごしたのちに、趣味のスポーツがこうじてコーチ業に転身。日本のメディア多数で執筆。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。

 

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