人生も五十路の坂にさしかかる頃になりますと、それまでの人生を振り返る機会も多くなるものです。そんな時、己の半生を言い表す言葉を探してみるのも一興ではないでしょうか? もしかすると、先人が残した言葉や名言の中に、“言い得て妙”と思えるような言葉を見つけられるかもしれません。そして、その言葉からは、己が何を信条として生きてきたのかも見えてくるのではないでしょうか。
名前さえ知らなかった人物が残した言葉。その言葉が、自分が歩んだ人生と重なる“奇遇”を体験できるかもしれません。第18回の座右の銘にしたい言葉は「泰然自若(たいぜんじじゃく)」 です。
目次
「泰然自若」の意味
「泰然自若」の由来
「泰然自若」を座右の銘としてスピーチするなら
最後に
「泰然自若」の意味
「泰然自若」について、『⼩学館デジタル⼤辞泉』では、「落ち着いていて物事に動じないさま」とあります。泰然は「心を落ち着かせる」、自若は「どっしりとして心の動かないようす」という意味があります。つまり、泰然自若は、平常心を保ち、周囲の変化や困難に揺さぶられることなく、冷静に対応することを指します。この言葉は、特に困難な状況に直面したときに、自分の信念や落ち着きを失わない姿勢として、多くの人にとって理想的な心の持ち方とされています。
「泰然自若」の由来
「泰然自若」の由来は、古い故事から来ているように思われますが、先述したように、「心安らかなようす」を示す「泰然」と「何事もないかのように振る舞う」「自若」という二つの語が重なってできた言葉です。中国の歴史書『金史』顔盞門都傳(がんさんもんとでん)には、「矢石(しせき)の前に至ると雖(いえど)も、泰然自若たり。」といった記載があり、古くから使われていたことがわかります。
現代社会は、情報が溢れ、日々様々な変化が起こります。そんな中で、私たちはしばしば不安やストレスを感じることがあります。しかし、心を落ち着かせ、冷静に対応することができれば、どんな困難も乗り越えることができる、という指針となる言葉です。
「泰然自若」を座右の銘としてスピーチするなら
「泰然自若」という言葉は、どんな状況でも心を平静に保ち、自然体でいることの大切さを教えてくれます。私たちの人生には、予期せぬ出来事や困難がつきものです。そんな時こそ、泰然とした心を持ち続けることが重要であると伝えることで、聴衆をひきつけることができるでしょう。以下に、「泰然自若」を取り入れたスピーチの例を三つあげます。
1:家族との関係についてのスピーチ例
私たち、シニア世代にとって、家族との関係は非常に大切です。しかし、時には家族間でのトラブルや誤解が生じることもあります。そんなときこそ、「泰然自若」の心構えが役立ちます。例えば、息子や娘が仕事で悩んでいるとき、親としてどう接するべきか悩むこともあるでしょう。ここで焦ってアドバイスをしすぎるのではなく、まずは相手の話を静かに聞くことが重要です。
そして、自分自身も落ち着いた心を持ち続けることで、子供たちに安心感を与えることができます。このように、「泰然自若」を実践することで、家族関係がより良い方向に進むでしょう。
2:健康面についてのスピーチ例
私たちくらいの年齢になりますと、健康に関する悩みが増えてきます。病気や体力の低下に対して不安を感じることは自然なことですが、ここでも「泰然自若」の姿勢が大切です。例えば、定期的な健康診断で異常が見つかった場合も慌てずに冷静に対処することが求められます。医師の指示に従い、適切な治療や生活習慣の改善を行なうことが重要です。
また、日常的にストレスを感じないように、リラックスできる趣味や活動を取り入れることも有効です。「泰然自若」を実践することで、心の安定が保たれ、健康管理がよりスムーズになるでしょう。
3:ボランティア活動についてのスピーチ例
シニア世代の多くは、地域社会やボランティア活動に積極的に参加しているでしょう。こうした活動では、時に意見の衝突や予期せぬトラブルが発生することもあります。そんなときこそ、「泰然自若」の精神が役立ちます。
例えば、地域のイベントでリーダーを務める際、計画が思うように進まないこともあるでしょう。そんなときに焦らず、冷静に状況を分析し、適切な対応をすることで、チーム全体の信頼を得ることができます。また、自分自身が落ち着いて行動することで、周囲の人々も安心し、協力して問題を解決することができます。「泰然自若」の心を持つことで、社会活動がより充実したものとなるでしょう。
最後に
人生経験豊富なシニア世代は、困難を乗り越える力を既に持っていますが、「泰然自若」という言葉を新たな視点として取り入れることで、さらに充実した人生を送ることができるでしょう。この言葉が示す通り、どんな状況でも心を落ち着かせ、自然体でいることが、真の強さと幸福をもたらします。皆さんもぜひ、「泰然自若」の精神を日常に取り入れてみてください。
●執筆/武田さゆり
国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com