文/鈴木拓也
40歳以上の大半が夜間頻尿
厚生労働省による、「国民生活基礎調査」(令和4年度)によると、男性が自覚する心身の不調は、腰痛、肩こりについで頻尿が多い。また、別の調査では、40歳以上の男女のうち約4500万人が夜間頻尿だという。
医学的には、頻尿は日中に8回以上排尿すること、夜間頻尿は夜起きて排尿する回数が1回はあることをいう。
「夜1回のトイレはたいしたことないのでは?」と思われるだろう。
しかしこれ、もしかすると「寿命が縮まるサイン」かもしれない。
そう言うのは、順天堂大学大学院の泌尿器学の第一人者である、堀江重郎教授。堀江教授は、(夜間)頻尿には、生活習慣病が潜んでいる可能性があると、著書『尿で寿命は決まる 泌尿器の名医が教える 腎臓・膀胱 最高の強化法』(SBクリエイティブ)と説いている。
ここでいう生活習慣病は、高血圧、動脈硬化、糖尿病などを指す。いずれも放っておくと、命にかかわりかねない病気だ。
膀胱の柔軟性低下で夜間頻尿になることも
本書で堀江教授は、「より深刻にとらえた方がいいのは夜間頻尿」だと指摘。原因をいくつか挙げている。
例えば、単純に水分のとりすぎ。これは分かりやすいが、特にカフェイン飲料やお酒は膀胱を過敏にする作用があるという。この場合、夜はこれらを控えることで、割と簡単に改善する。
より問題なのは、糖尿病にかかっていて多尿になっているケース。血糖値が高いと尿量が多くなるのは、よく知られているが、それゆえ体内の水分が不足気味になりやすい。それを補おうと、水分をたくさんとって、トイレの回数が増えるという悪循環となる。
また、膀胱の「柔軟性が下がる」ことで、夜間頻尿が生じることもあるという。柔軟性が下がるとは、膀胱の筋肉が硬くなること。そうなると、尿をためる量が減って頻尿となる。
実は膀胱で作られる一酸化窒素には、膀胱の筋肉に柔軟性を与える作用がある。ところが生活習慣病にかかると、この一酸化窒素が十分につくられなくなるという。
このほか、腎機能低下や睡眠時無呼吸症候群が、夜間頻尿の原因となることもある。こうしてみると、「たかが夜1回のトイレくらい」と馬鹿にできないものがある。
現実問題、60代以上の8割以上が、夜トイレに起きている。堀江教授は、もし夜間頻尿を自覚したら、どの要因があてはまるかを考え、泌尿器科医を受診することをすすめている。
運動と栄養の両面で頻尿を防ぐ
膀胱のトラブルは、専門医の診断・治療を受けるのが基本となるが、自分で行える「尿活トレーニング」も本書で紹介されている。
これは、膀胱の筋肉が柔軟性を失ったり、衰えるのが頻尿の一因なので、そこを鍛えるというもの。ただ、膀胱の筋肉に直接的にアプローチすることはできないため、下腹部を動かし間接的に鍛錬する。
その1つが「肛門エクササイズ」で、「肛門をギュッーと5秒間くらい締めて緩める」ことを約10回繰り返す。これにより間接的に膀胱の筋肉がストレッチされ、柔軟性が復活する。また、一般的なスクワットやプランクも同様の効果があるという。
食生活においては、アルギニンとシトルリンを摂ることが推奨されている。これらの栄養素は、膀胱に柔軟性を与える一酸化窒素の材料となるからだ。アルギニンはアミノ酸の1種で、肉、魚、豆、種実に多く含まれる。シトルリンは、スイカ、メロン、キュウリ、ニガウリなど瓜科の果物・野菜に豊富。なので、ゴーヤチャンプルーといった料理は「最強」とのことで、ふだんの食事に積極的に取り入れるようにしたい。
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本書には、ここで取り上げた頻尿以外にも、過活動膀胱や前立腺肥大症など、中高年からの気になる症状の傾向と対策がわかりやすく説かれている。気になる方は、一度読んでみるといいだろう。
【今日の健康に良い1冊】
『尿で寿命は決まる 泌尿器の名医が教える 腎臓・膀胱 最高の強化法』
文/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。