2024年3月7日、警察庁はSNS上で投資勧誘を装う「SNS型投資詐欺」と、外国人などを名乗り恋愛感情を抱かせる「ロマンス詐欺」の2023年の被害が3846件と発表した。その被害総額は合計すると約455億円。これは「オレオレ詐欺」と呼ばれる特殊詐欺の441億円を上回っているという。
東京都に住む義夫さん(71歳)は、「2年前、69歳の誕生日プレゼントが投資詐欺。被害額は50万円だったが、犯人は僕からプライドと自信を奪った。家族がいなければ死んでいたかもしれない」と語る。定年後に詐欺に遭う人は少なくない。老いて犯罪被害者になることのダメージの深さと、なぜ被害に遭いながらも立ち上がれたのか、その背景を聞いた。
義夫さんは、73歳の妻と2人暮らしだ。40歳と35歳の娘はそれぞれ結婚し独立している。義夫さんは大手通信関連企業に65歳まで勤務しており、夫婦2人なら賄える財産はあるが、定年後、減り続けるお金に危機感を覚えていた。
【これまでの経緯は前編で】
孫が私立小学校に進学が決まり、援助を頼まれた
義夫さんが投資に積極的に興味を持ったのは、68歳のとき。当時37歳の長女から、孫の私立小学校の学費の援助を頼まれたことだ。
「長女は、自分が小学校から大学までのエスカレーター式の学校でのびのび育ち、優良企業に勤務し、同僚と結婚して親子で充実した毎日を過ごしている。だから同じ道を我が子にも歩ませてやりたいと思ったんでしょうね。孫が幼い頃から小学校の受験塾に通わせていました」
孫は優秀で、長女の出身校よりもはるかに上のランクの小学校に合格する。
「妻も私も大喜びで、銀座のレストランをフンパツして、長女一家と私たち夫婦の5人でお祝い会をしようと持ちかけたんです。すると娘は“その分のお金が欲しい”と。娘夫婦が勤務する会社は給料が高いことで知られる優良企業です。親の援助なんていらないはず。私が訝しんでいると、“ママに言うと心配するから”と言うので、娘の家に行ったんです」
するとそこはゴミ屋敷だった。婿は「受験が終わったらやろうと思っていたんです」と苦笑い。さらに、娘夫婦は小学校受験に全振りしており、塾に通うために時短勤務に切り替えていたという。
「お金のことを聞くと、婿は結婚するまで貯金を一切していないくらい計画性がない。さらに共働きだからシッターもハウスキーパーも必要。幸いなのは住宅ローンがなく、比較的安い家賃のマンションだったことです」
時短勤務からフルタイムに切り替えれば、給料はそれなりの額になるが、入学金や授業料、制服代は待ったなしだ。それを義夫さんに頼ったのだ。
「私のへそくりが600万円くらいあるので、そのうち200万円をお祝い金として渡しました。娘夫婦は涙を流して喜んでいましたよ。私には長女のところに1人、次女のところに3人の孫がいる。この子達がもしものときに備えなければと投資に興味を持ったのです」
そんなとき、SNSを通じて、それなりに有名な投資家から「あなたの資産を運用しますよ」とメッセージが来た。義夫さんがSNSで繋がっている人を見ると、しっかりした人脈があり、社会的地位が高い人も多い。その投資家からメッセージがくるのも非常によくわかる。
「共通の知人もいるので、信じ込んじゃったんです。このとき、SNSの本人ページを見れば、なりすましだと分かったんでしょうけれど、信じてしまった」
義夫さんはその投資家とメッセンジャーでやり取りをした。「まさか◯◯さんからメッセージがいただけるとは」と送ると、投資家は「つながりも多いですから。それに、定年後のお金は誰もが不安になりますので、お役に立てれば」と返してきた。
「もうとにかく言葉がうまい。当時はコロナ禍だったから、不安に包まれている人が本当に多かったと思う。信じ込んでしまうんですよ。さらに、“お子さんやお孫さんの教育費も心配ですよね”などと誰にも当てはまるようなことを返してくるんです」
当初、義夫さんは50万円を「僕に預けてください」と個人名の口座を指定された。
「よく考えれば、その投資家が僕みたいな個人に投資を持ちかけるわけがないし、決してそういうことはしない人。ただ、そのときはコロナ禍だったことと、僕自信が不安に包まれていたので、信じてしまったんです」
投資家は「明日までに、50万円をこの口座に振り込んでください」と個人口座を指定。そこに振り込んでしまったのだ。
「口座名義が個人で、その投資家と別の名前だったんですが、“きっと本名なんだろうな”と思ってしまった。帰宅してチャットを見ると、その投資家が消えている。そのときに足が砂になって崩れていくようなショックを受けました」
【投資詐欺に引っ掛かる自分が許せない……次のページに続きます】