平成から令和にかけてSNSの普及はめざましいものがあります。特に無料通話アプリのLINEは、今やほとんどの人が利用しているアプリでしょう。LINEは、いつでも気軽に相手と連絡のとれる便利なツールです。しかしながら、その便利さは落とし穴もあります。
最近ある中古車販売会社の役員が部下に、「死刑」という言葉を連呼する過激なLINEを部下に送っていたことが話題になりました。もし対面の会話だったら、そこまで強い表現をしたでしょうか? LINEは顔を合わせずにすぐに連絡できるので、感情のまま暴言を書いてしまったのかもしれません。
人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が、LINEによるパワハラをテーマに解説していくことにします。
目次
業務時間外、上司からのLINEはパワハラか?
職場のグループLINE、入らなければいけない?
職場のグループLINEでのいじめの実例
最後に
業務時間外、上司からのLINEはパワハラか?
上司から部下に業務時間外にLINEを使って連絡することは、はたしてパワハラになるでしょうか?
基本的には時間外に連絡しても、それだけではパワハラになりません。夜間や早朝であっても、業務上必要な連絡であった場合は違法とまでは言えないでしょう。
ただし、その回数や内容によってはパワハラと認定される場合もあります。人格を否定するような暴言が書かれた場合は、パワハラになるのは言うまでもありませんが、「業務上の必要性があるか」ということもパワハラかどうかの判断のポイントになります。
緊急ではない仕事の指示を時間外に頻繁に送る、応答しないと叱責するなどの行為はパワハラとみなされることもあります。また、育児や介護で時短勤務する社員に時間外に連絡することも、注意が必要です。
休みの日に仕事のLINE… どう対処したらいい?
LINEは気軽に連絡できるため、時間や曜日を問わず連絡が入ってしまうという難点にもつながります。休みの日に仕事のLINEが送られてくる場合は、どのように対処すべきしょうか?
そのLINEの内容が緊急性の高い連絡であったら、即応答することはやむをえませんが、特に急ぎではないものは、自分の都合のよいタイミングで連絡すれば良いと思います。内容によっては「未読スルー」も一つの手ですが、出社した時注意されることも……。
しかし、そもそも休日は労働基準法で「労働義務を負わない日」と規定されています。休日に仕事の指示のLINEを送り付ける行為は、休日労働の強制に当たる場合もあります。職場内でLINE利用のルールを作って、休日の連絡は極力避けるようにすることが望ましいでしょう。
職場のグループLINE、入らなければいけない?
もしも、職場のグループLINEに入ることを強制された場合は、入らなければならないでしょうか?
それが私的なグループであったなら、気が進まなければ断わってもさしつかえありません。穏便に断わりたければ
「LINEをあまり見ないので」
「LINEの操作が苦手」
などの理由をつけるといいでしょう。
ただし、LINEグループを業務連絡に使っている職場などでは、入らざるを得ない場合もあります。やむを得ずグループに入ったとしても、職場のLINEでは、次のような注意が必要です。
・プライベートな話は書かない。
・絵文字やスタンプなどは避ける。
・応答は簡潔にし、会話が長く続かないようにする。
・即応答せず、表現をよく考えてから応答する。
また、個人への叱責や注意は、グループLINEでなく、本人に直接伝えるようにしましょう。
職場のグループLINEでのいじめの実例
LINEグループを作っている職場は数多くありますが。トラブルも増えてきています。それは、いわゆる“LINEいじめ”というもの。“いじめ”なんて子供みたいだと思われる方も多いでしょうが、ここでは二つの事例を紹介したいと思います。
事例1
A子さんが所属している商品発注部は、部署の女性でグループLINEが作られていました。主に勤務シフトの調整や伝達事項の連絡に使っていたのですが、グループのリーダー格のB子さんはこのLINEにプライベートなことを頻繁に書いてきます。その内容は、上司や顧客のうわさ話やランチや退社後の誘いなど。
個人的な質問に答えを求められることも多く、負担に感じたA子さんは職場のLINEは仕事の話に限ったものにしてもらいたいとB子さんに伝えました。
その日からなぜか、連絡事項がA子さんに伝わらないことが多くなりました。ある日、電話での発注キャンセルが伝えられず、A子さんは大きな発注ミスをしてしまい、部長から叱責されることに。いつの間にか、A子さんだけ外した別のグループLINEができていたのです。
事例2
Cさんの部署ではD課長を中心としたグループLINEを作っています。このD課長、LINEが好きで、退社後も次々とLINEを送ってくるのです。
その内容も「今日の会議の意見はどうだったか?」「○○の新プランについてどう思う?」などという重いもの。
フルタイムの会社員である妻と、保育園に通う二人の子供の子育てを分担しているCさんは、とてもD課長のLINEに応答しきれません。同僚が意見を書き連ねているのを読んでも、つい既読スルーしてしまったり、簡単な意見しか返せないことも。
D課長はCさんに対して、「Cは意見が少ない」「会議ではちゃんと聞いていたのか」などと注意してきます。Cさんは、意見は職場で聞いてほしいと申し出たのですが、D課長は「そうか、会社を出ればもう関係ないってことだな」と、不機嫌そうに横を向いてしまいました。
この2つの事例と似たようなトラブルは、実際に起こりえることです。
職場のLINEは個人的な話の場ではないことを、会社側がしっかりと認識させなければなりません。また、退社後に仕事についての意見を書かせることは、事実上時間外勤務の強要になります。
急用は「電話で連絡する」、「勤務時間外は原則として使用を避ける」、「業務連絡以外は使わない」など、職場で一定のルールを作って、全員が共有することが大切です。
最後に
いつでも連絡できる便利なツールは、その便利さが負担になるという諸刃の剣でもあります。勤務を離れた時間はプライベートな時間です。自分の都合だけで連絡をする、応答を求めるという行為は、相手のプライベートを侵害するハラスメントになりかねません。
職場のLINEは、「個人の時間を尊重する」という意識を念頭に置いて、適切なルールのもとで利用しましょう。
●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)
社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com