ハラスメント

職場には性別、年齢、価値観の違う人々が集まっています。すべての人と円滑な人間関係を築くことは、難しいもの。トラブルが起こることも多々あります。運悪くハラスメントの被害にあうこともあるでしょう。

「ハラスメント」という言葉は今や広く社会に定着しました。「セクハラ」「パワハラ」などの言葉は日常会話でもしばしば登場しており、ハラスメントが「嫌がらせ」の意味であることは、ほとんどの方が知っていると思います。

しかしながら、「ハラスメントを防止するにはどうしたらいいか?」と聞かれたら、答えに困ってしまう人は多いかもしれません。そもそも職場におけるハラスメントについて、正しく理解している人はどれくらいいるでしょうか?

「指導のつもりで」あるいは「親しみの表現として」やっているつもりの行為の中にも、ハラスメントは潜んでいます。「職場におけるハラスメントの防止」は、「みんなで努力しましょう」という単なる道徳的規範ではありません。

ハラスメント防止措置を講ずることは、法律によって明確に規定されている事業主の義務なのです。そのことを踏まえた上で、職場のハラスメント対策について考えてみましょう。職場でのハラスメント対策について、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が解説いたします。

目次
法改正によりハラスメント対策は強化されている
ハラスメントを防止するための対策とは?
ハラスメントが発生した時の具体的な事例と対応策は?
最後に

法改正によりハラスメント対策は強化されている

厚生労働省が「職場におけるハラスメント」として、事業主の防止対策が義務付けられているのは次の3つです。

1)パワーハラスメント
2)セクシュアルハラスメント
3)妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント

パワーハラスメントは、「労働施策総合推進法」において、セクシュアルハラスメントは「男女雇用機会均等法」において、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントは「育児・介護休業法」において、事業主が防止措置を講ずることが義務付けられています。

これらの義務化の流れは、数回の法改正を経て内容が強化されてきました。例えば、2019年の改正では、この3つのハラスメントすべてで、事業主に相談したこと等を理由とする不利益な扱いは一切禁止されました。

さらにパワーハラスメントの防止措置は、当初大企業以外は努力義務となっていましたが、2022年の改正では、すべての事業主が防止措置を講ずることが義務化されています。

ハラスメントを防止するための対策とは?

では、職場におけるハラスメントを防止するためには、どんな対策が必要でしょうか?

厚生労働省の指針では、事業主が雇用管理上講ずべき措置として、「ハラスメント防止の方針の明確化と周知」「相談できる体制の整備」「ハラスメントが起こった場合の迅速な処理」「プライバシーの保護」などが義務化されています。

ハラスメントが起こる大きな要因としては、ハラスメントに対する知識の欠如があります。例えば、パワハラは「優越的な関係を背景とした言動であって」「業務上必要かつ相当な範囲を超え」「労働者の就業環境が害されるもの」とされており、厚生省の指針でも具体的な内容が示されています。また、育児休業等に関するハラスメントは、女性のみならず「男女労働者」が対象になると明確に規定されています。

ですから、特に管理職の立場にある方は気をつけましょう。そして、何がハラスメントに当たるのか、職場の全員が正しく知ることが必要なのです。

ハラスメントが発生した時の具体的な事例と対応策は?

では、実際にハラスメントに当たる事例とはどんなものでしょうか? ここでいくつか事例をご紹介します。

・十分な教育もしていないのに高すぎる目標を設定し、達成できないと厳しく叱責する。雑用などを含め、多すぎる仕事を強制し、「まだできないのか」「もっと頑張らないとついていけないぞ」などと圧力をかける。

・特定の社員を仕事から外したり、誰でもできる簡単な仕事しか与えないなどして孤立させる。

・「肩をもんでやるよ」などと言って、身体に触れてきたり、ことあるごとに背中や腰をたたいたりする。

・個人の趣味や家族の話、休みの日の行動などについて、しつこく聞いてくる。個人情報などを本人の了解を得ずに他人に暴露する。

・妊娠・出産した社員に「長く休めていいわね。こっちは大変なのに」と嫌味を言ったり、育児休業を取得した男性社員を「男のくせに育児休業をとるなんて」と批判する。

これらの事例を読んでどう思われるでしょうか? ハラスメントというと暴力や暴言、性的関係の強要などをイメージする人も数多くいます。しかし、実際の事例を見ると、誰でも加害者にも被害者にもなりうるものだということがわかるでしょう。

ハラスメントの加害者は、「少しくらい厳しい指導は当たり前だ」「こんなことで傷つくなんておかしい」などと考えてしまいがちですが、ハラスメントかどうかは行為を行った側が判断することではありません。あくまで受けた側の感じ方が問題となります。ただし、被害者がハラスメントだと主張すれば何でも認められるわけではなく、「平均的な労働者がどう感じるか」という視点が基準とされています。

ハラスメントを防止するためには、会社側は研修を行うなどして、社員に正しい知識を身につけさせるとともに、「ハラスメントは許さない」という方針を職場の全員に周知させなければなりません。

プライバシーの保護に配慮しつつ、当事者が相談できる窓口を設置するなどして、適切な事後処理に努めることも必要です。

また、育児休業などについては、就業規則の改訂や代替要員の確保など、取得しやすい環境整備を行うこともハラスメント対応策となります。

最後に

ハラスメントを防止するには、何よりもハラスメントに対して正しい知識を持つことが大切です。「たいしたことでもないのに大げさに騒いでいる」などと思ってはいませんか? 今は多様な生き方、多様な価値観が尊重される世の中です。自分の考えだけに固執していてはハラスメントはなくなりません。

個人の人格や尊厳を傷つけることは許されない行為なのです。他人を尊重しない人は自分自身も尊重できません。お互いに他人を思いやる心を持つことが、ハラスメントのない明るい職場の実現につながるのです。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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