ハラスメントという言葉が日本で使われだしたのは、平成の初め頃のことです。当初はセクシャルハラスメントの話題が中心で、パワーハラスメントなどが職場で問題視されるようになったのは比較的最近のことです。しかしながら、今やハラスメントという言葉はすっかり社会に定着した感があります。

現在、職場のハラスメント防止は多くの企業が取り組んでいる課題です。若い人だけでなくサライ世代でも、ハラスメントについて全く知らないという人はほとんどいないでしょう。そうした社会の流れを受けて、最近は、暴力・暴言や露骨な性的言動などのハラスメントは以前よりは見かけなくなりました。

では、ハラスメントは減ったのかというと、決してそうではありません。誰にでもハラスメントとわかるような典型的なケースが少なくなったというだけで、職場にはまだ数多くのハラスメントが潜んでいます。

そこで、本記事では、人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子が、3つの具体的な事例を交えながら、わかりやすくご紹介いたします。

目次
職場のハラスメントの具体的な事例
ハラスメントの対策
最後に

職場のハラスメントの具体的な事例

以下に、「昭和型ハラスメント」、「いじめ型ハラスメント」、「追いつめ型ハラスメント」と分類し、具体的な事例をご紹介いたします。

昭和型ハラスメントの事例

A課長は、いわゆる昭和の「モーレツ社員」タイプの人です。決して悪い人ではないのですが、何かにつけて自分の若い頃の経験を押し付けてくるので、部下のBさんは振り回されっぱなしです。

「仕事は足で稼ぐもんだ」と指導されオンラインで済むような話でも取引先に出向くことを命じられたり、毎晩のように酒席を設け夜中まで付き合わされたり、という具合です。

Bさんが効率の良い仕事のやり方を提案しても聞き入れてくれません。ワーク・ライフ・バランスなんて言葉もどこ吹く風です。

「このままでは仕事でも生活でも自分のやりたいことがまったくできない」、Bさんは悩んだ末、転職を考えるようになりました。

【解説】

このタイプの上司は、本人にはパワハラの自覚はまったくありません。それどころか自分のことを面倒見のいい上司だとさえ、思っています。古い価値観や社会認識に固執した「自覚のないハラスメント」の典型と言えるでしょう。

いじめ型ハラスメントの具体的な事例

ベテラン社員のC子さんは、いわゆる姉御肌の人です。社内の女性の中で自分のグループを作っており、ボス的な存在となっています。中途入社のD子さんは、このC子さんとの関係がうまくいきません。

きっかけはC子さんのいる職場のチームの中で、D子さんが重要な仕事をまかされたことでした。C子さんはそのことでプライドが傷つけられたのかもしれません。D子さんが偏差値の高い大学出身であることや、前職が有名企業の社員であったことも、C子さんは気にいらないようです。

D子さんが挨拶をしても無視されることは、しばしば。上司や取引先からのお土産のお菓子も、D子さんには配られません。D子さんはできるだけ気にしないようにしていましたが、そのうち仕事にも支障をきたすようになってしまいました。チームの仕事のことでC子さんに質問しても、「優秀なあなたに私が教えることなんてないでしょ」などとろくに対応してくれません。

D子さんは会社に行くのが憂鬱になり、退職を考える毎日です。

【解説】

このように「自分の気にいらない人を攻撃する人」は、どこの職場にもいるものです。攻撃のパターンは無視や陰口のような陰湿なものが多く、部下から上司へのハラスメントもこのタイプにしばしば見られます。

追いつめ型ハラスメントの具体的事例

E課長は神経質で、いつも不機嫌そうにしている人です。真面目で仕事熱心なのですが、書類の書き方ひとつでも部下に細かく指示し、ミスがあろうものならいつまでもネチネチと説教をします。

休みを取ったり、早く帰ろうとすると嫌味を言い、少しでも雑談などをしているとあからさまにイライラした態度をとるので、周囲の者は委縮しています。

E課長の部下のFさんは、今悩んでいます。Fさんの妻は妊娠中で、共働きのFさんは育休を取得しようと考えているのです。けれども困ったことには、E課長は育児休業にも否定的で、隣の部署で育休を取得した男性社員に対して「長く休む者には、重要な仕事など任せられない」、「男のくせに育休を取るなんて無責任」などと言っています。

「あの課長では育休を取るなんて無理」…。たとえ育休を申し出て取得できたとしても、今後の仕事がやりにくくなりそうで、Fさんはなかなか言い出すことができません。

【解説】

このタイプは独善的で他人への寛容さが薄いのが特徴です。このタイプの上司の下で、部下は十分に能力を発揮できません。また、育休への嫌味は制度の無理解からくるもので、管理職がこのような発言をするのは問題です。会社は厳正に対処しなければなりません。

ハラスメントの対策

具体的な事例を3つ見てきましたが、解決策をご紹介いたします。

ハラスメント対策で義務化されたこと

職場のハラスメントは、「労働施策総合推進法」「男女雇用機会均等法」「育児・介護休業法」などの法律で明確に禁止されています。企業がハラスメントの防止措置を講じることは義務化されているのです。

会社が行なうべき具体的な策としては、「アンケートを実施して現状を把握する」、「研修などで正しい知識を身につけさせる」、「相談窓口を設置する」などが挙げられます。就業規則を整備して育休などの制度を周知させることも必要です。

ハラスメント行為があったら、事実関係を正確に把握して、迅速に対応しなければなりません。被害者の相談には誠実に対応し、相談したことでの不利益扱いは一切ないこと、プライバシーは守られることを伝えましょう。

繰り返し啓発活動を行い、時には厳正な処分を行って再発防止に努め、ハラスメント防止の方針を職場のすべての人に浸透させることが重要です。

最後に

ハラスメントには実に様々なケースがあります。職場では部下への注意や叱責、同僚との意見の衝突などはよくあることです。しかしながら、業務上必要な範囲を超えて相手を攻撃したり、不快感を与えることはハラスメントにつながります。

人の価値観というのはなかなか変わりません。しかし、お互いを尊重するという意識を持っていれば、考え方の違いは克服できます。自分の言動を客観的に見直す習慣を身につけましょう。

「自分も相手も大切に」という心でコミュニケーションをとることが、良好な人間関係を築くコツなのです。

●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)

社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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