「ハラスメント」というものは、とても複雑なもののようです。一概に加害者・被害者と決めつけられない事例もあります。と申しますのも、「ハラスメント」は受け取り手の気持ちによるものなので、どこを限度として加害者になるのかがわかりにくいのです。「気づいたら、加害者になっていた」ということもあるでしょう。
近年では「ハラスメント・ハラスメント」が問題になりつつあります。これは、何らかのハラスメントを受けた当人が声高に被害を受けたことを主張し、必要以上に喧伝する行為のことです。このことにより、加害者であった人が、組織の中で孤立したり、ポジションを失うなど、精神的に追い込まれ、今度は被害者となります。
賢明なるサライ世代としては、加害者になることも、被害者になることも避けなければなりません。そこで、ハラスメント・ハラスメントの具体的事例を人事・労務コンサルタントとして「働く人を支援する社労士」の小田啓子がご紹介しますので、教訓と警鐘としてお役立てください。
目次
ハラスメント・ハラスメントとは?
ハラスメント・ハラスメントの事例にはどんなものがある?
ハラスメント・ハラスメントの対策
最後に
ハラスメント・ハラスメントとは?
「ハラスメント・ハラスメント」という言葉の意味をご存じでしょうか? ハラスメント・ハラスメント、略してハラハラとは、自分が不快に感じた他人の言動に過剰に反応して、ハラスメントだと主張する行為のことです。
ハラスメント被害を訴えること自体は悪いことではありませんが、中には単なる言いがかりや相手に対する嫌がらせと思われるものも少なくありません。
こうした問題が起こると、部下への必要な指導や教育がしづらくなったり、職場の雰囲気が悪化するなどの弊害も出てきます。
ハラスメント・ハラスメントの事例にはどんなものがある?
「ハラスメント・ハラスメント」は具体的にはどんなことを指すのでしょうか? 2つの事例を挙げて考えてみましょう。
「課長、それってセクハラですよね」
A子は昨年入社した若手社員です。上司であるB課長はいつもA子には手を焼いています。A子は遅刻が多く、勤務態度はよくありません。この会社には制服はありませんが、以前A子が胸元の大きく開いた派手な装いで出社してきたのをやんわり注意したところ、「課長、それってセクハラですよね」と周囲に聞こえるような声で言ってきました。
B課長は、その時は受け流したものの、別の日に体調が悪そうな様子で働いているA子に、朝から具合が悪そうだが大丈夫かと声をかけたら、「私のことずっと見ていたんですか?」とにらまれたのには、ちょっとした恐怖心さえ覚えました。
そんなことが続き、B課長はA子に対しては強く注意できなくなってしまいました。A子はB課長のことを同僚にはセクハラ課長と呼んでいる様子……。
「パワハラですか? 訴えますよ」
「自分は指導力不足なのか」、そう考えるC課長は部署をまとめていく自信を失いつつあります。
一方、C課長の部下のD君は優秀で真面目に仕事をするタイプです。しかしながら、D君は独善的なところがあり、連絡や相談をせずに一人で暴走してしまうことも多く、チームを組む他のメンバーからは不満が出ていました。
見かねたC課長が仕事の進め方について注意したところ、黙って聞いていたD君が突然、「パワハラですか? 訴えますよ」と言ってきたのには唖然としました。「これは業務に必要なことだから」と言っても、D君は不満そうな様子。その後も、D君は自分のやり方を改める様子はありません。それどころか再度注意しても、パワハラ自殺の裁判などの話題を出してきたり、ちょっと家庭の話を聞いただけで「プライべートに踏み込むのはパワハラ」などと主張するのです……。
C課長は「俺も、パワハラ加害者で訴えられるのかな……」と考えつつ、D君をどのように指導したらいいか悩んでいます。
この二つの事例を読んでどう思われましたか?
こういう社員がいると、仕事に支障をきたしてしまいます。他の社員にも良い影響を与えません。
ハラハラをする人は相手に対して「ハラスメントで訴える」などと発言しますが、訴えたとしてもすべて被害者側の主張が通るわけではありません。周囲の証言などで、“ハラスメントは認められない”という判断をされることもあります。
この事例の二人は、自分の主観だけで相手の行為をハラスメントと決めつけています。ハラスメントの判断は、「一般の労働者がどう感じるか」という平均的な感覚を基準としており、自分が不快だというだけでハラスメントだと主張しても認められないのです。
ハラスメント・ハラスメントの対策
「ハラスメント・ハラスメント」を防止するのはどのような対策をとったら良いでしょうか? まずはハラスメントについての正しい知識を職場内で共有することです。定期的な研修を行なったり、社内ルールを作るなどしてハラハラの存在を周知するようにしましょう。
自分がハラハラを受けた場合は、決して感情的にならず、客観的に自分の言動を振り返ってみましょう。ハラスメント行為をした心当たりがないなら、安易に謝罪しないことです。謝罪してしまうと、自分の行為をハラスメントと認めたことになりかねません。
ハラハラは当事者だけで解決しようとせず、周囲の人間に事実関係をきちんと理解してもらうようにしましょう。
最後に
「ハラスメント・ハラスメント」のような問題が出てきたのは、ハラスメントという言葉が広く浸透し、個人の意識が高まったことが背景にあります。転職などが一般的になり、年功序列の観念や会社への帰属意識が希薄になったことも一因と言えるでしょう。
「ハラハラは許されない」ということは、言うまでないことです。ただし、ハラハラを受けた側には全く問題がないかというと、必ずしもそうとばかりはいえません。ハラハラする人は相手のことを普段から好ましく思っておらず、それが過剰な反応として出たという場合が多く見られるからです。
もし、あなたがハラハラを受けたら、胸に手を当てて考えてみましょう。「最近の若者は、たいしたことなくてもすぐ騒ぐ」「ハラスメントなんて単なるわがまま」などと内心思っていませんか? そのような価値観を持っていると、無意識でそうした言動が出てしまい、周囲に嫌悪感を抱かせてしまうこともあります。ハラスメントは誰もが被害者にも加害者にもなりうるということを今一度意識しましょう。
ハラスメントのない職場というのは、お互いに他者を尊重しあう職場です。トラブルを放置せず、一人一人が自分も他人も大切にするという意識を持つことが大切なのです。
●執筆/小田 啓子(おだ けいこ)
社会保険労務士。
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は、美術鑑賞。
●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com