生産者から料理人まで飲食業界に大きな影響をもたらした漫画『美味しんぼ』。連載開始から今年で40年。原作の雁屋哲さんが厳選した、『サライ』10月号の別冊付録の作品に登場する京都の店を案内する。
事前予約のみでつくられる繊細で上質な生菓子
嘯月(しょうげつ)|北区紫野
京都を代表する和菓子店『嘯月(しょうげつ)』。初代は、室町時代後期に京都で創業した『虎屋』で修業したのち、大正5年に『嘯月(しょうげつ)』を開業した。店名は、当時の建仁寺の管長から授けられた「月に嘯(うそぶ)く虎」という言葉から名付けたという。
漫画『美味しんぼ』第56集の作中で主人公の山岡らに餡づくりの極意を説いているのは、今は亡き2代目である。現在は3代目の後藤宏之さん(69歳)が、作中で描かれた先代と同じ方法で餡づくりに勤しみ、春夏秋冬の美しい和菓子に仕立てる。同じ菓子でも例えばきんとんは、春は蓮華 、秋には菊の花の意匠となる。食すと驚くほどさらりとした繊細な口溶けで、余韻は清々しくさえある。
一番いい状態で食べてほしいとの願いから、つくり置きはしない。創業以来、店頭には商品を置かず、すべて事前予約のみで販売する。前日までに電話で注文をすればよいが、春と秋の観光シーズン中は早めの予約が望ましい。1日5種ほどの菓子をつくり、購入は1個から可能。店頭で受け取ったその日のうちに、儚い美味を堪能していただきたい。
嘯月
京都市北区紫野上柳町6
電話:075・491・2464
営業時間:9時~17時 菓子の受け取りは10時から。
定休日:日曜、月曜、祝日 前日までに要予約。
交通:市営地下鉄北大路駅より徒歩約15分
雁屋哲さんの推薦状
『嘯月』の生菓子を初めて食べた時の驚きを私は忘れない。何ひとつ濁りのない清純で澄み切った味が私の心を貫いた。雑味を抜きに抜いて甘いと言う事は何なのかその真髄を突き詰めたのが『嘯月』の菓子である。
※嘯月の「嘯」のつくりは庸から广(まだれ)を取ったもの。
漫画『美味しんぼ』とは
東西新聞社の記者である山岡士郎と栗田ゆう子が取り組む「究極のメニュー」と、山岡の父であり陶芸家の美食家、海原雄山が考案する「至高のメニュー」の対決が繰り広げられる食漫画。食材から調理法まで最高品質を追求する一方、山岡らが食を通して周囲の人々の悩みを解決してゆく人情物語でもある。
※この記事は『サライ』本誌2023年10月号より転載しました。取材・文/安井洋子 撮影/奥田高文