洛中と洛外。時代によって定義は異なるが、おおきくいえばみやこの中心部とその周りである。紅と黄に染まる“洛外”から物語を始めたい。

平安期に顕現した極楽浄土の世界を歩く
宇治

10円硬貨の意匠「鳳凰堂」(国宝)は、中国と日本独自の芸術が調和した平安和様建築の遺構。中央に阿弥陀如来坐像が安置される。

旅した人 高島礼子さん(女優・59歳)
昭和39年、神奈川県生まれ。昭和63年テレビドラマ『暴れん坊将軍II』で女優デビュー。平成11年から映画『極道の妻たち』シリーズ(東映配給)の4代目「極妻」を務め人気を博す。平成13年、映画『長崎ぶらぶら節』(平成12年/東映配給)で日本アカデミー賞優秀助演女優賞受賞。映画『千年の恋 ひかる源氏物語』(平成13年/東映配給)では藤壺中宮、桐壺更衣を演じた。現在も多くのテレビドラマ、映画、舞台などに出演し女優としてのキャリアを積んでいる。
Instagramアカウント @reico.official

京都洛外南部に位置する宇治は平安時代に貴族の別荘地として発展。紫式部の『源氏物語』の舞台にもなった風光明媚な古の街だ。

「宇治の趣ある社寺や史跡が四季折々の風景に映え、今でも千年前の貴族たちの優美な姿が偲ばれます。とりわけ秋は、錦に染まった山肌に紅葉狩りを楽しむ貴族たちの装束が相まって、さぞかし艶やかな光景だったことでしょう」

そう語るのは銀幕の中で多くの歴史上の人物を演じてきた女優の高島礼子さん。『源氏物語』を題材にした映画にも出演し宇治との縁も深い。そんな高島さんと往時を偲びながら宇治の街を歩いた。

時代を超え輝く平安期の美の凝縮

JR宇治駅から徒歩約10分、宇治茶の老舗が連なる表参道を通ると、世界遺産「平等院」の表門に出る。門をくぐり庭園を歩くと池の中島に煌びやかな「鳳凰堂」が鎮座している。極楽浄土の世界を具現化させた阿弥陀堂で、その荘厳な姿が水面に映りなんとも神々しい。高島さんは平等院を「心の拠り所となる“美”が凝縮した寺院」と称える。

「建立当時、末法思想(※仏法が衰えて世の中が乱れるという思想。)と疫病が広がり、救いを求める人々が鳳凰堂の“美”に極楽浄土を合わせ縋(すが)ったと聞きます。特に秋のお彼岸の時期は太陽がお堂の背後に沈むように見えて、霊験あらたかに人々の心を癒やしたそうです。千年の時を経た今も、その美しさに変わりありません」(高島さん)

鳳凰堂でご住職に説明を受ける。お堂は、鳳凰が羽を広げて降り立つ姿に似ていることから江戸時代にそう呼ばれるようになった。
敷地内のミュージアム「鳳翔館」では貴重な美術工芸品を多数展示。写真は和様美を極めた52躯の「雲中供養菩薩像」(国宝)の一部。他に1万円札の意匠「鳳凰」(国宝)など見応えがある。

平等院|宇治市宇治蓮華

永承7年(1052)に藤原頼通(よりみち)が父・道長から受け継いだ別業(別荘)を寺院に改めて建立した。

宇治市宇治蓮華116
電話:0774・21・2861
開館時間:庭園/8時30分~17時30分(最終受付17時15分) 平等院ミュージアム 鳳翔館/9時~17時(最終受付16時45分)
拝観料::600円
交通:JR奈良線宇治駅、京阪電鉄宇治駅から徒歩で約10分

平安期の創業と伝わる老舗茶屋

宇治の紅葉巡りの魅力に移動距離の短さがある。半径数kmの範囲内に多くの社寺や紅葉名所が点在。例年11月中旬から12月上旬ごろまで紅葉をゆっくり歩いて楽しめる。名所の周辺には飲食店も多く、とくに鎌倉時代より栽培が続く「宇治茶」は一服の価値がある。

「ここに来ると、いつも通りに香ばしいお茶の香りが漂っていて、気持ちが穏やかになれるんです」と高島さん。この日は宇治橋近くにある老舗茶屋『通圓茶屋』で抹茶と茶だんごをいただいた。

茶屋の縁台で上抹茶と茶だんごのセット(900円)を賞味。現在の建物は、寛文12年(1672)に建てられたものという。
茶房で人気の「茶そば」(1000円)。ほかに挽きたての抹茶をふんだんに使用した抹茶アイスなどのスイーツ類や、煎茶と茶だんごのセットなど多数揃う。

通圓茶屋|宇治市宇治東内

創業は永暦元年(1160)。当初は宇治橋の橋守(守護職)として旅人にお茶を提供していた。

宇治市宇治東内1
電話:0774・21・2243
営業時間:9時30分~17時30分
定休日:無休
交通:京阪電鉄宇治駅からすぐ。JR奈良線宇治駅からは徒歩約7分。

社寺の紅葉を愛でる

『通圓茶屋』を出て、近くに流れる宇治川縁から伸びる「琴坂」を歩いた。琴坂は、曹洞宗初開道場「興聖寺」の参道。宇治を代表する紅葉の名所でもある。

山門までの約200mの緩やかな坂道は、道の両脇に楓の古木が繁茂している。色づくと錦繍のトンネルができて歴史を紡ぐ名刹まで誘われる。禅道場ならではの凛とした静寂さと鮮やかな錦の紅葉にしばし耽った。

興聖寺石門から見た琴坂の紅葉。門から坂を下ると、宇治川の水面が木々の間に見え絶景。参道脇を流れる谷川の水音が琴の音色に似ていることから、琴坂と呼ばれている。写真/中田 昭

トンネル状の紅葉の下を歩いて参拝

興聖寺 宇治市宇治山田

天福元年(1233)建立。境内には本堂や僧堂、枯山水の庭が広がる。紅葉の見頃は11月中旬~12月。

宇治市宇治山田27-1
電話:0774・21・2040
開門時間:夜明けより日没まで(おおよそ5時~17時)
拝観料:500円
交通:京阪電鉄宇治駅より徒歩約15分。JR奈良線宇治駅より徒歩約20分。

国宝にして世界遺産

「社寺の紅葉は、連綿と続く歴史に彩られてより見応えがあります」と、歴史好きの高島さんが次に向かったのは、世界遺産の「宇治上神社」だ。
 
宇治上神社は隣接する宇治神社とともに、『源氏物語』の宇治八の宮のモデルとされる菟道稚郎子(うじのわきいらつこ)が祀られている。本殿は現存する日本最古の神社建築で、拝殿前には「離宮いろは」と呼ぶモミジの古木が色づく。

「ここは『源氏物語』の舞台のひとつとされ、物語には紅葉のシーンも登場します。紫式部が境内の“離宮いろは”を愛でながら小説の構想を練る姿が、すぐそこにあるような気がします」(高島さん)

切妻造り、檜皮葺きの拝殿(国宝)は、建保3年(1215)建立。拝殿の奥に平安後期頃に建てられた本殿(国宝)が立つ。
宇治上神社の大鳥居から拝殿までの参道と、神社北側に伸びる石畳の散策路「さわらびの道」が紅葉スポット。写真/水野克比古

宇治上神社|宇治市宇治山田

古くは隣接する宇治神社と二社一体の存在であったとされる古社。平成6年世界遺産に登録。

宇治市宇治山田59
電話:0774・21・4634
開門時間:8時30分~16時20分 境内自由
交通:京阪電鉄宇治駅より徒歩約10分。JR奈良線宇治駅より徒歩約20分 

兎を神使とする古社

宇治神社の本殿前には楓が植えられ、色づくと朱塗りの柱に映え人気がある。隣接する宇治上神社とともに訪れたい紅葉名所だ。写真/中田 昭
百人一首にも採られた喜撰法師の歌碑。〈わが庵は 都のたつみ しかぞすむ 世をうぢ山と 人はいふなり〉(訳/宇治にある庵で平穏に暮らしているのに、世を憂いて逃れ住んでいると世の人は言っているようだ)。宇治で平穏に暮らしながら詠んだ歌。

宇治神社|宇治市宇治山田

御祭神は菟道稚郎子命。兎を神使とし「兎神社」とも呼ばれる。

宇治市宇治山田1
電話:0774・21・3041 境内自由
交通:京阪電鉄宇治駅より徒約10分。JR奈良線宇治駅より徒歩約20分。

※この記事は『サライ』本誌2023年10月号より転載しました。取材・文/松浦裕子 撮影/奥田高文

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