土地を相続人名義に変更する場合、手続きが生前なら「贈与税」、死後になって遺言や遺産分割協議を基に変更するなら「相続税」がかかります。一般的には、基礎控除額や小規模宅地等の特例といった有利な点を踏まえ、相続税の方が得だと言われていますが、本当に節税できるかどうかは個別の試算が必須です。
そこで今回は、日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)の税理士 中川義敬が、長年にわたる税理士業務を通じて得た幅広い知識や経験に基づき、土地の生前贈与のメリット、デメリット、節税のポイントについてご説明いたします。
目次
土地の生前贈与に向いているケースとは?
土地を生前贈与すると発生する税金の種類と計算方法とは?
土地は生前贈与と相続ではどちらが得?
土地を生前贈与する際の注意点とは?
まとめ
土地の生前贈与に向いているケースとは?
親から子へ、あるいは祖父母から孫へのように親族間で土地を譲る場合、生前贈与はあまりお勧めできません。後述しますが、相続税の仕組みと比較すると、課税額の面で不利になりやすいからです。
ただ、認知症や相続トラブルの備えと考えるのであれば、デメリットばかりではありません。
【メリット】
・贈与者の健康状態が悪化しても、受贈者名義で引き続き管理できる
・受贈者も名義変更のタイミングも自由に選択できる
【デメリット】
・相続税と比べて課税額が高くなりやすい
・受贈者は「特別受益者※」扱いになり、遺産分割で不利になる
※特別受益者とは、遺贈を受けたり、結婚資金や生活費として生前贈与を受けたりした人を指します。特別受益にあたる贈与財産は「相続財産」とみなされ、法定相続分から控除されます。
土地を生前贈与すると発生する税金の種類と計算方法とは?
生前贈与をした場合の計算方法と、留意点についてご説明いたします。
生前のうちに譲る場合の「贈与税」の仕組み
生前のうちに土地を相続人名義に変えた場合は、「暦年課税」と「相続時精算課税」 のいずれかの方法で贈与税が課税されます。基本は暦年課税であり、60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子・孫に贈与する場合は、相続時精算課税を選択することが可能です。
暦年課税の計算方法
(年間に贈与を受けた財産の価格 - 基礎控除額110万円)× 贈与税率
【暦年課税の税率・控除】 <特例贈与財産用>
贈与財産の価額 | 200万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 4,500万円以下 | 4,500万円超 |
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | − | 10万円 | 30万円 | 90万円 | 190万円 | 265万円 | 415万円 | 640万円 |
※基礎控除は、すべて110万円
※本表の税率等は、直系尊属から18歳以上の子・孫等に贈与する「特例贈与財産」に適用されるものです。
相続時精算課税の計算方法
(贈与を受けた財産の価格 - 2,500万円)× 20%
なお、令和6年1月以降に相続時精算課税制度によって贈与した場合には、2,500万円の控除のほか、110万円の基礎控除額も追加されます。
【相続時精算課税】基礎控除額・税率
贈与財産の価額 | 2,500万円まで | 2,500万円を超える部分 |
税率 | 非課税 | 一律20% |
相続時精算課税の効果と留意点
相続時精算課税を適用した贈与財産は、将来贈与者が亡くなった時、相続税の課税価格に算入しなければなりません。正確ではないものの、簡単に言うなら「相続開始まで課税を繰り延べる」制度です。
節税効果が発生するのは、適用した財産で賃貸経営等を始めて納税資金を得る場合や、相続開始時までに評価額が上昇する見込みがある場合です。
土地は生前贈与と相続ではどちらが得?
一方、所有者の相続開始をきっかけに土地の名義を変える場合はどうでしょうか。まず、下記表で確認できる通り、基礎控除額は多く確保することが可能です。さらに、後述の評価額の減額に繋がる制度も用意されています。
【相続税の税率・控除】
課税価格 | 1,000万円以下 | 3,000万円以下 | 5,000万円以下 | 1億円以下 | 2億円以下 | 3億円以下 | 6億円以下 | 6億円超 |
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | − | 50万円 | 200万円 | 700万円 | 1,700万円 | 2,700万円 | 4,200万円 | 7,200万円 |
※基礎控除は、すべて3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)
「小規模宅地等の特例」の効果と留意点
自宅の相続のように、配偶者や同居家族が居住用宅地等を相続する場合、その評価額を80%減額できます。この「小規模宅地等の特例」と同様の効果は、生前贈与では得られません。
ただし、本特例には、適用対象の不動産につき「相続税の申告期限までは、少なくとも所有し続けなければならない」とする適用要件があります(取得者が配偶者である場合を除く)。また、限度面積が330平方メートルである点にも留意しなければなりません。
相続で不動産をもらい受けるメリット・デメリット
子や孫などが自宅を引き継ぐ際、課税面では相続の方が有利になりやすいと言えます。しかし、個別の相続税の課税額に関しては、小規模宅地等の特例の適用要件や、課税価格に含まれる自宅以外の財産の状況等から、適宜判断しなければなりません。
問題は、生前のうちに認知症等を発症してしまった場合、その時は名義人でない子・孫が管理を引き継ぐのに手間がかかる点です。また、複数の相続人のうち「引き継ぐ人は1人」と決まっている場合、遺産分割時のトラブルに向けて対策が必要になります。
【メリット】
・贈与税と比べて課税額が低くなりやすい
・生前は今の所有者の権限で管理処分できる
【デメリット】
・所有者の健康状態が悪化した場合、管理処分が滞る
・相続争いや土地活用時のトラブルを防ぐ対策が必要
土地を生前贈与する際の注意点とは?
課税面で「土地は相続するのが、最も得」と判断した場合、残る問題は、デメリットで紹介した各種トラブルへの対策です。これに対しては、下記のような方法が考えられます。
・遺言による共有名義の回避
自宅の取得者につき、取得者以外の相続人に取り分相当の金銭を支払わせる「代償分割」の遺言をする。
・配偶者居住権の設定
遺された配偶者が住処を失わないよう、自宅について「配偶者居住権」を取得させる内容で遺言する。
・認知症対策
元気なうちに任意後見契約の締結する、家族信託を組成して同居家族に自宅管理を任せる。
ここで挙げる対策は、基本的には弁護士の取り扱い分野です。しかし相続税における代償金の取り扱い、配偶者居住権への課税、信託期間中の課税など、税理士による診断が欠かせない部分もあります。分野の切り分けを行いながら対処できるプロでないと、完璧な対応は難しいでしょう。
まとめ
納税額のみを考えますと相続税の方が得になるケースが多いです。しかし、土地の名義変更を自由に設定したい場合や、将来地価が大きく上がる可能性がある場合、相続財産が多く相続税が高い税率で課される可能性が高い場合には、贈与税の方が税額が低くなる場合もあります。このようなケースでは、贈与を活用した方が良いでしょう。
また、土地の贈与を検討するにあたっては、どのような対策をしたいのか、相続人には誰がいるのか、相続財産には何がどれだけあるのかを考慮して考えていく必要があります。相続に強い信頼できる税理士にアドバイスを受けながら対策していくことがお勧めです。
●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)
日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。
日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com)
構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・https://kyotomedialine.com)