ライターI(以下I):小牧長久手の合戦で家康(演・松本潤)は局地的に勝利を得たわけですが、秀吉(演・ムロツヨシ)は〈家康にゃあ勝たんでも、この戦にゃあ勝てる〉と豪語しました。
編集者A(以下A):「戦に負けて勝負に勝つ」とかよく言いますが、秀吉には策があったということでしょう。局地戦では大敗しましたが、家康とのにらみ合いは数か月ほど続いて、膠着状態だったわけです。秀吉はいったん離脱して有馬温泉などに訪れたり、「家康勝利!」というほどの切迫感は感じていなかったのでしょう。
I:ということは、池田勝入(恒興/演・徳重聡)の討ち死にを〈うるさいのがいなくなって〉と言っていたのも、案外本音だったかもしれないですね。
A:ということで、劇中ではそこまで描かれませんが、秀吉は織田信雄(演・浜野謙太)の領国である伊勢を攻めるわけです。家康とにらみ合いながら、戦線を拡大できたわけですから、実際には両者の間には戦力差があったのではないでしょうか。
家康次男の流転の始まり
I:家康陣営からも人質をさしだすことになりました。この時点で家康の息子といえば、嫡男信康(演・細田佳央太)はすでに亡く、於愛の方(演・広瀬アリス)が生んだ長丸(後の秀忠)、福松(後の忠吉)は三男、四男になるのですよね。
A:人質になるのはお万(演・松井玲奈)が生んだ家康次男・於義伊(おぎい/演・岩田琉聖)になります。
I:お万といえば、劇中、三方ケ原合戦で大敗して落ちこむ家康を湯殿で慰めた女性ですよね。家康のお手がついたことで、正室瀬名(演・有村架純)の怒りを買うのではないかと思料したお万が自ら大木に縄をかけた場面が描かれました。
A:「瀬名悪女説」に基づけば、縄にかけたのは瀬名の命ということになるのですが、本作ではそうした伝承をアレンジしたわけです。実際には、瀬名がお万の出産を承認しなかったので、外で育てられた不憫な子が於義伊になるわけです。
I:〈私のことは捨て殺しとなさってください〉という於義伊の言葉が健気で健気で泣けてきました。
A:確かに、於義伊の今後の人生を思うと涙がこぼれてきますね。
秀吉正室寧々が登場
I:ここにきてようやく秀吉の正室の寧々(演・和久井映見)が登場しました。
A:秀吉のことを〈一百姓の出であることをお忘れあるな〉と諫めていました。その通りといえばその通りなのですが、織田家中で功績をあげて、段階を踏んで出世を遂げた人物だということを忘れてはいけないと思います。家康だって三河のごく一部を領するに過ぎない存在から五か国の太守になっているわけですから、これぞ「THE 戦国」のダイナミズムなわけですから、あんまり秀吉を下げないでほしいとは思います(笑)。
I:寧々は尾張弁を話す感じでしたが、上品ながらも抑揚がちゃんと尾張弁になっていて、秀吉役のムロツヨシさんもそうですが、さすがですね~。
A:はい。以上、愛知県出身のIさんの尾張弁への論評でした。
【農民から関白まで昇りつめた日本史上屈指の出世劇。次ページに続きます】