文/鈴木拓也
山ノ内テツローさんは、定年退職後の今は嘱託として働いている。
長年、長女との二人暮らしであったが、その娘がマレーシアに移住。テツローさんは、30年以上ぶりに一人暮らしと自炊を再開した。
ある日の仕事帰り、テツローさんは路地奥に「のみ処 きつね」という店を発見。若い店主は、実は人間に化けたきつねで、その店は“23時のおつまみ研究所”というラボであった……。
……という、ちょっとシュールな漫画で幕を開けるのが、話題のレシピ集『23時のおつまみ研究所』(ポプラ社)。
著者は、料理研究家の小田真規子さん、作画は漫画家のスケラッコさんというコラボで完成した本書は、ためになる蘊蓄(うんちく)と楽しいエピソードが満載の1冊。ぜひ一度読んで、実際に作ってほしいが、今回はその中からレシピを2つ紹介しよう。
焦がしニラ玉半熟仕上げ
「のみ処 きつね」の店主は、テツローさんに謎かけをする―「おつまみにいちばん必要な要素って何やと思う?」。
正解は「香り」。作りたての「焦がしニラ玉半熟仕上げ」を出して、店主はさらに謎めいたことを言う―「今感じている香り、じつは半分しか嗅げてへん」と。
香りには、「レトロネーザル」と「オルソネーザル」の2種類あるという。通常の鼻で嗅ぐのがレトロネーザル。対してオルソネーザルとは、口に入ったときに「喉を通り鼻に抜ける香り」を指す。
このオルソネーザルには特徴があって。(食べているときに)鼻をつまむと感じられない。ビールによく合うニラでさえ、香りは激減。まさに良い香りは、つまみの命なのだ。
……という知識を頭に入れながら、以下の要領で「焦がしニラ玉半熟仕上げ」を作ってみよう。
【材料】
・ニラ:1/2把(50g)
・卵:2個
A-しょうゆ:小さじ1、ごま油:小さじ1、こしょう:少々
・ごま油:小さじ2
・塩:2つまみ
【作り方】
1 ニラは5cm長さに切る。
2 卵は箸先を立てるように40回ほぐし、Aを加えて混ぜる。
3 フライパン(26cm)に油を中火で熱し、煙が出たら、ニラを広げ、塩をふって1分焼く。
4 上下を返したら中央を空け、卵液を流し入れ、ニラと合わせるように大きく10回混ぜたら火を止める。
ひたひただし巻き卵
店主の作った、だし巻き卵に舌鼓を打つテツローさん。
どうして、こんなにおいしいのだろう?
店主は、だし巻き卵で重要なのは「うま味!」と説く。なんでも、うま味は「日本人が発見した基本味」だそうで、「お酒の最大のおとも」だとも。また、複数のうま味を掛け合わせることで、おいしさに相乗効果が生まれるそうだ。
だし巻き卵には、かつおだしのイノシシ酸が、卵の黄身にはグルタミン酸がうま味として含まれている。だし巻き卵がおいしいのは、このため。
では、「ひたひただし巻き卵」を作ってみよう。まず、だしから。
【材料】
・水:1&1/4カップ
・削り節(細かい花削りタイプ・真空パック個包装):2袋(5g)
【作り方】
1 耐熱ボウルに水を入れ、削り節を軽く浸す。ふんわりラップをして、レンジに3~4分かける。
2 レンジから出して、そのまま2分おく。茶こしでこし、粗熱をとる(60分以内にとれる)。
そして、いよいよだし巻き卵へ。
【材料】
・卵:4個
A-だし:大さじ4、しょうゆ:小さじ1、みりん:小さじ2、塩:2つまみ
・サラダ油:適量
【作り方】
1 ボウルに卵を割り、卵白を切るように箸で30回混ぜ、Aを加えてよく混ぜる。
2 卵焼き器に、ペーパーで油を塗り、中火で3分熱する。卵液の2/3量を広げる。まわりがひらひらと固まってくる。
3 ゴムベラでゆっくり混ぜてスクランブル状にし、固まり切る前に向こう半分に寄せる。
4 手前にペーパーで油を塗り、残りを入れる。向こう側の卵の下にも、卵液を行き渡らせる。
5 表面が少し乾くまで1分半焼き、ゴムベラで手前にパタンと2つ折りにする。
6 両面を軽く焼き固め、形を整える。
このように本書には、はじめてでも楽しく作れる、新定番のおつまみレシピが詰まっている。興味のある方は、いつもの晩酌に役立ててみてはいかがだろう。
【今日のおいしい1冊】
『23時のおつまみ研究所』
文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。