文/印南敦史
ストレスの多い時代である。多かれ少なかれ、誰もが「心の苦しさ」を抱えながら生きているといっても過言ではないだろう。そして、そうなるとより身近な存在となるのが「うつ」ではないだろうか。
人間関係のトラブルなどを発端として感じる生きづらさ、コロナ禍のような不測の事態がもたらす不安や困窮、あるいはリストラや転勤、身近な人の死など、さまざまな要因がメンタル不調につながると考えられている。
だが精神科医である『メンタルは食事が9割』(宮島賢也 著、アスコム)の著者は、どのストレスも自分だけで解決するのは難しいと断言する。まじめで責任感が強い人、気を使いすぎる人などはとくに自分を追い込んでしまい、ストレスをためやすいとも。
そこまでいい切るのは、自身が7年間もの間、うつの症状に苦しんできたからだ。経験のある方なら共感できるかもしれないが、薬を飲めば症状はやわらぐものの、結局のところそれは対症療法にすぎないため、完治には至らなかったわけである。
意外なのは、そんな著者を食事が救ったという事実である。「食事を見なおすくらいならできるかもしれない」と思って試してみた結果、2週間で体調に変化が表れ、うつの症状が消えていったというのだ。
食事で心の不調を改善するために大事なのは「体に毒を溜めないこと」であり、そのためには以下の2点を心がけるべきであるという。
1.毒になる食べ物はできるだけとらない
2.溜まった毒はすぐに外に出す
(本書「はじめに」より)
実際に行うのは、「果物と生野菜、玄米中心の食生活にする」「水をたっぷり飲んで、午後8時以降はなるべく食べない」こと。細かいルールは多少あるようだが、大きくこの2点を見なおした結果、効果があったというわけだ。
とはいえベジタリアンのように厳しいものではなく、実際は肉や魚を食べてもOKで、さらに、果物と野菜なら好きなだけ食べてもいいというルールにしたという。ルールがゆるいと、思いのほか継続できるものでもあるからだ。
心が変化したのには、理由があります。
体に毒を溜めない食事は、脳の状態に大きな影響を与える腸を整える食事であり、脳に栄養を与える食事でもあったからでした。
だから、心身ともに健康になるわけです。(本書「はじめに」より)
また、うつに悩んでいた著者にとっては、「変われた」という事実が重要だったようだ。
だとすれば気になるのは「なにを食べるか」だが、体に毒を溜めない「毒出し食生活」は、簡単にいえば玄米菜食になるという。具体的には、どんな食生活にすればいいのだろうか?
お話ししたように、果物と野菜を中心に、イモ類、豆類、海藻などの植物性食品を食べます。(中略)果物や野菜など植物性食品中心の食生活にして、動物性食品の摂取を減らすと、心が穏やかになり、安定してきます。
イライラしなくなるのです。(本書84ページより)
著者が実践してきた、玄米菜食の1日のスケジュール例を確認してみよう。
まず注目すべきは、朝に野菜をジュースにして飲むということ。野菜ジュースが苦手だという方もいらっしゃるだろうが、オレンジやリンゴなどの果物を混ぜ、ミックスジュースにすると飲みやすいはずだ。
あるいは、野菜ジュース、果物のジュースと豆乳を混ぜ、豆乳野菜ジュースや豆乳野菜果物ジュースにするという方法も。豆乳は腹持ちをよくするだけでなく、大豆に含まれるイソフラボンがホルモンのバランスを整えてくれるのだ。
そして昼食と夕食は、前述のとおり生野菜などの植物性食品を中心としたメニュー。物足りなさを補うため、炊いた玄米を追加するという。
基本的な考え方としては、副菜を主食にして、主食を副菜にするイメージです。普段は副菜の生野菜のサラダなどを好きなだけ食べて、ごはんは少なめにする食事になります。
とりわけでんぷんを含まない野菜(イモ類、コーン、ニンジン、カボチャ、レンコン、グリーンピース、ビーツ以外の野菜)は好きなだけ食べてください。
1日の野菜の摂取目標量は、生野菜で450グラム、温野菜で450グラム、合計900グラムです。(本書88ページより)
難しそうにも思えるが、著者の場合、昼はコンビニエンスストアで生野菜のサラダなどを買い、保存容器に入れた玄米と合わせたそうだ。なるほど、それなら実践できそうではある。
なお、サラダで満足感を得るために便利なのがアボカド。サラダとアボカドを合わせると、それだけでヘルシーなランチメニューになるわけだ。同様に、サラダにナッツや種子類を合わせてとるのもいいだろう。
またアボカドや豆類(豆腐、納豆も含む)は、穀類やイモ類と合わせても消化の妨げにならないため、一緒に食べても大丈夫だという。
もちろん、火を通した野菜料理を食べていただいてかまいませんが、なるべく生の食べ物を中心にした食事構成にしてみましょう。なお、果物は加熱すると、糖が酸に変わってしまうため、生で食べるのが鉄則です。(本書89ページより)
まずは1週間でも2週間でも、できる範囲で食事を変えてみることを著者は勧めている。そうすれば、少しずつ変わっていくことが実感できるからである。いずれにしても、うつの症状の有無に関係なく、健康な状態をものにできそうではある。
文/印南敦史 作家、書評家、編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。1962年東京生まれ。音楽雑誌の編集長を経て独立。複数のウェブ媒体で書評欄を担当。著書に『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)などがある。新刊は『「書くのが苦手」な人のための文章術』( PHP研究所)。2020年6月、「日本一ネット」から「書評執筆数日本一」と認定される。