タイヤ径の小さい自転車を小径車と呼ぶ。必然、車体は小型になり車重も軽量になる。その利点を活かして、小径車では折りたたみができ、持ち運びが容易な自転車が数多く作られてきた。その代表格が、英国の「ブロンプトン」だ。
ブロンプトンは、1975年に若かりし日の創業者、アンドリュー・リッチーにより発明された。車体は3つの部分で折りたため、容易に持ち運べる大きさになる。この基本構造は今も変わらず、創業時からの変わらぬ理念として引き継がれている。ブロンプトンの名は、アンドリュー・リッチーの自宅から見えていたブロンプトン礼拝堂から取った。
1980年代に入り製品化され、出資者の元に30台のブロンプトンが届けられた。これがもっとも初期型の「MK1」(1981年)モデルである。その後、改良が加えられ「MK2」(1987年)、「MK3」(2000年)とモデルチェンジをしていく。
今では、ブロンプトンは英国ですっかり認知を高め、近距離の移動手段として広く使われる。ロンドンでは、スーツ姿のビジネスマンがブロンプトンで移動するのは、ごく当たり前の光景だ。鉄道やバスに加え、もうひとつの都市交通手段として自転車が定着している。
当初は30台から始まったブロンプトンの生産台数は、昨年に100万台を超えた。今では、ロンドン郊外のグリーンフォードの工場から年間約10万台を出荷し、日本を含め全世界に愛用者を広げている。量産体制となった今も手作りの工程は変わらず、安全の要となる溶接は職人の手により行なわれる。溶接部分には職人のイニシャルが刻印され製造の責を担う。車輪のスポークの取り付けも、メインフレームの塗装も人の手による。英国の職人が手作りした折りたたみ自転車が、ブロンプトンなのだ。
折りたたみや組み立ては、慣れればそれぞれ20秒以内で完了し、ペダルを漕げば小径車とは思えない、安定した軽快な走りを体験できる。ブロンプトンジャパンの担当者によると「50km程度であれば無理なく走れる」というから、スポーツ自転車の感覚に近い。目的地に着けば折りたたみ、常に自身の側に置けば盗難の心配もない。
日常を変える自転車
もし、ブロンプトンを手に入れたらと考えると、日常の移動手段を超えた夢が広がる。たとえば、鉄道で「輪行」(※りんこう:自転車を列車などで携行すること。)をすると旅先での行動範囲が格段に広がるだろう。自転車では行けないような遠方は列車で訪ね、その先をさらにブロンプトンで巡るのである。鉄道+ブロンプトンの組み合わせにより、旅の楽しみは倍加する。
日常も変わる。これまで鉄道やバスを使っていた近距離の移動を、ブロンプトンに切り替えてはいかがか。自転車のスピードで走れば、新たな景色が見えてくる。なにより自転車は健康に寄与するはずだ。
永く乗れるのもブロンプトンの特長。モデルチェンジをしても、車体の基本形は変わらずパーツの互換性があるので、年数が経っても修理が可能だ。前出の担当者は「一生のパートナーになる」という。ブロンプトンにより日常が変化し、一生の持ち物になることを考えれば、この「投資」もそう高くはない気がしてくるのである。
取材・文/宇野正樹 撮影/稲田美嗣 スタイリング/有馬ヨシノ
※この記事は『サライ』本誌2023年6月号より転載しました。