字画も少なく、しょっちゅう目にする簡単な漢字。読めそうなのに、いざ声に出して読もうとすると、正しく読めるかどうか心配になって、思わず声をひそめてしまう漢字ってありませんか? サライ世代ともなりますと、いったん思い込み認知をしてしまうと、なかなかイニシャライズ(初期化)が難しいですよね。
簡単な漢字であっても、脳トレ漢字の記事を読みながら確認学習をしていただくことで、思い込み認知をイニシャライズできる機会になると思います。
「脳トレ漢字」第146回は、「各々」をご紹介します。会議などでよく使われますが、実はかなり古くからある言葉ということをご存知でしょうか? 実際に読み書きなどをしていただき、漢字への造詣を深めてみてください。
「各々」は何とよむ?
「各々」の読み方をご存知でしょうか? 「かくかく」ではなく……
正解は……
「おのおの」です。
『小学館デジタル大辞泉』では、「多くのもののそれぞれ。めいめい」と説明されています。「会議に使う資料は、各々準備してください」などのように、「皆さん」や「それぞれ」という意味として使われることが多いですね。
かなり昔から使われてきた「各々」という言葉。平安時代前期に成立した『伊勢物語』にも記述があり、この頃から既に「それぞれ」という意味として使われていたということがわかります。
最初は、複数のものや人に対して使われていた「各々」。しかし、鎌倉時代に成立したとされる『平家物語』にも見られる通り、次第に複数の相手への呼称として使われることが多くなっていきました。その後、室町時代末期から江戸時代にかけては、「各々様」や「各々方」など、目上の人に対する表現として使われるようになったとされます。
「各々」の漢字の由来は?
では、「各々」を構成する漢字を一文字ずつ見ていきましょう。「各」という漢字には、「それぞれ」「色々」などの意味が含まれています。そこに、同じ漢字を重ねる時に用いる「々」をつけ、「各々」という言葉が成立しました。
また、「おのおの」という読みに関しては、「己(おの)」を重ねて読んだことに由来するそうです。
『日葡辞書』にも記載された「各々」
皆さまは、『日葡(にっぽ)辞書』についてご存知でしょうか? 『日葡辞書』とは、1603年にキリシタン宣教師の日本語修得を目的として作られた辞書です。日本語をポルトガル語で説明しているこの辞書には、方言や幼児語、仏教語や俗語など、膨大な量の言葉と、その発音が記載されています。
そのため、当時の言葉や文化を知ることができる重要な書物として、世界的に注目されているのです。辞書の中には、「vonovono」という記載があり、当時使われていた「各々」の意味について説明されていることがわかります。
『日葡辞書』は、日本イエズス会の宣教師と日本人信者の合作です。したがって、当時の日本人の発音をそのままローマ字に当てたという説が有力だと言われています。
したがって「vonovono」というローマ字表記を見ると、当時は「各々」のことを「ボノボノ」と発音していたのではないかと考えることができますね。ほかにも、「人数」を「ニンジュ」、「日本」を「ジッポン」と発音していたとされ、現在とはかなり異なるということがわかります。
1603年と言えば、家康が江戸幕府を開いた年。もし、この時代の日本にタイムスリップしても、言葉が全く伝わらないかもしれませんね。
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いかがでしたか? 今回の「各々」のご紹介は、皆さまの漢字知識を広げるのに少しはお役に立てたでしょうか? 現在でもよく耳にする「各々」には、予想以上に古い歴史があるということがわかりました。また、『日葡辞書』の記載にも見られるように、同じ言葉でも昔と今とでは発音がかなり異なるということがわかりますね。
古くから使われている日本語は、ほかにもたくさんあります。発音の変化についても調べていただくと、言葉の持つ新たな一面が見えてくるのではないでしょうか?
文/とよだまほ(京都メディアライン)
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