文/鈴木拓也
「人生100年」が現実味を帯びたこれからの時代、一生のうちにかかる医療費はおよそ2800万円にのぼるという(厚生労働省推計。ほとんどの人は健康保険に加入しているので医療費を全額負担することはない。医療費の1割から3割を負担する人が多数)。
生涯の入院回数は10回、外来は約1000回というデータもあるが、それはやはりシニアになってから増えてくる。
年はとっても、不必要な通院は避けたいし、余計な医療費も抑えたい。そのために必要なものは、なんだろうか?
それは、事前の「十分な知識と準備」だと力説するのは、医業経営コンサルタントの五十嵐淳哉さん。それがないばかりに、「実は間違っているという医療のかかり方」が多いと、著書『ネット時代のやってはいけない病院・医師選び』(青春出版社)で述べている。
救急車のたらい回しはこう防ぐ
本書で五十嵐さんが挙げる例が「救急車」。
コロナ禍で救急車のたらい回しが話題になったが、実は「病院は理由をつければ救急車の受け入れを正当に断ることができる」という。
その理由として、処置困難・専門外・医師不在が一番多く、また満床であったり、担当医が手術中であったりという事情も少なくない。
では、もし急病にかかったらどうすべきだろうか?
五十嵐さんのアドバイスはこうだ。
医師は患者から要請があった場合は、診察を断ることができません。医師法に応召義務の規定があるからです。
つまり、「医療機関は救急車は断れるが、患者は断れない」のです。
もし、急に重症に罹ったような状況になった場合、救急車のたらい回しを回避するためにも、自家用車かタクシーで専門科目のある救急外来に行くべきでしょう。ただし、脳や心臓に異変を感じた場合、言葉が出ない、起きられないなどの場合はすぐに救急車を呼びましょう。(本書26pより)
ちなみに、救急車に乗る人の約半分が、実は「軽症」だという。救急車を使うべきかどうか判断に迷う病態なら、救急相談センターに電話して(#7119)、相談することを五十嵐さんはすすめる。
病院・医師選びはインターネットを徹底活用
インターネットの情報は玉石混交と言われるが、これだけ充実した情報源が普及した今、活用しない手はない。
五十嵐さんも、病院・医師選びについてはインターネットの利用を大いに推奨している。
ただし、押さえておくべきコツがある。
五十嵐さんは本書の中で、「基本情報を準備する」「病院をリストアップする」「症状に合う病院を選ぶ」「病院が自分に合っているかチェック」という4段階の基本的な手順を示し、各手順にすべきことを詳述している。
かいつまんでみると、例えば「診療所の評判をGoogleマイビジネスなどで調査する」というのがある。これは、リストアップした医療機関の候補の「口コミ」を見て、絞り込むというもの。そのためのツールとして、Googleマイビジネス、Caloo、病院ナビ、MyClinicといったサイトが挙げられている。それらの「口コミ」をチェックするにもポイントがある。例えば、
・悪い評価に目が行きがちだが、良い評価の中身を吟味すること
・良い評価のもので、ヤラセ的な内容が無いかも見る。内容の詳細が薄いものはヤラセの可能性がある
・悪い評価のものは、個人的な恨みで書かれていないか、ライバル医院がワザと書いている可能性が無いかを確認する。そのようなものは無視する(本書100pより)
このように、書かれてあることすべてを鵜吞みにせず精選していき、残った医療機関をランク付けする。基準は、通院時間、混雑度、院長の経歴など客観的な指標にもとづき、リストにしてまとめておく。
また、何か異常を感じて受診する前に、自身の症状をネット検索することも重要だとも。単に「腹痛」でなく、「右下腹部 キリキリ痛い」というふうに、より具体的に語順・語彙を変えて数回検索してみる。そして、キーワード検索だけでなく、画像検索も併せて行い、精度を高める。ヒットした情報は、書き手や出典など確認し、信頼性が高いものかもチェックする。こうした作業は、適切な医療機関で受診し、余計な心配を防ぐためにも大事なことだ。
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本書を読むと、常識と思い込んでいたことがいかに間違っているか、そして医療機関に全部おまかせという姿勢が、いかに問題を孕んだものであるかがよくわかる。それを防ぐため、インターネットを駆使した事前の調査・準備が必要なことが腹落ちできる。それは少々面倒かもしれないが、ちょっとの労力が、後悔を予防する。気になる方には、一読をおすすめしたい。
【今日の健康に良い1冊】
『ネット時代のやってはいけない病院・医師選び』
文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った映像をYouTubeに掲載している。