シスターフッド(女性同士の連帯)を描いた映画やマンガがヒットし、女性同士の友情が注目されている。しかし、現実は、うまくは行かない。これは女性の友情の詳細をライター・沢木文が取材し、紹介する連載だ。
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2023年4月20日、アメリカのニューヨーク市で、47歳の女が友人への殺人未遂で追訴されたとBBCが報道した。女は友人女性を殺害し、その人になりすまそうとしたのだ。同市クイーンズの裁判所は女に禁錮21年の刑を言い渡した。
直美さん(63歳)は「友達を殺したくなる気持ちはわかる。その人を殺して、その人になりすます……という悪夢を見ていたこともありました」と語る。人の命を奪うことは悪だとわかりながらも、想像は止まらなかった。なぜなら、直美さんは、友人・佐代子さん(62歳)に約3年間交際した恋人を寝取られてしまったからだ。
42年間のデパート勤務は毎日が文化祭だった
直美さんは大手百貨店に定年まで勤務していた。その経歴通り、品がよく控えめで、身だしなみが整った女性だ。
「高校を出てすぐに就職し、最初は受付でしたが、すぐに紳士服売り場に異動しました。ここが長かったかな。それから、寝具売場、インテリア関連売り場を担当し、美術関連の売り場に立っていました。たぶん出世コースだったと思います」
百貨店の勤務は、毎日が文化祭みたいで、定年まであっという間だったという。恋愛もあったけれど、結婚までは至らなかった。
「当時は、今とは異なり女性のキャリアが認められない時代でした。一般的に女性は結婚したら仕事を辞めるものだと思われていたので、仕事を続けたい私は結婚には縁がなかったんです」
とはいえ、直美さんは顔立ちが整っており、身長も162cmあって、スタイルもいい。その美しい容姿と佇まいは目立っただろう。紳士服売り場にいたころは、多数の男性客から名刺や電話番号を渡されたという。
「ありがたくいただいて捨てていました。私はアグレッシブな男性に興味がないんです。それは浮気ばかりしていた父の影響もあるんでしょうけれど、男の人が嫌いなのかもしれません。大きな声、大きな体をして、仲間を作ってガハガハ笑っている姿を見ると、今でもゾッとしてしまいます」
百貨店は、世界の最先端、一流品が揃っている。そこにやってくる人は、ある意味、「勝ち組」だ。当時の男性中心の社会で勝ち残るには、他者への圧力の強さも必要だ。
「だから、百貨店があるのかもしれませんね。私が20代の頃、同じ年のお客さんがいらっしゃって“商談で負けた。相手が仕立てのいいものを着て、高級な時計と靴を身に着けていたから怖気づいてしまったんだ”と言い、とてもいいスーツを仕立てたんです。それから何十年も通ってくださって……その方は、じきに社長になりましたよ」
この男性にも交際を申し込まれたが、お断りしたという。なぜなら、直美さんが退勤になる時間の通用口で、バラの花束を抱えていたから。
「私は目立つことが嫌いだと言っているのに、“女の子はこういうのが好きだろう”と決めつけられたんです。40代まではそういう男性だらけでしたよ」
【定年後のお茶会で彼氏ができた……次のページに続きます】