桜の額縁に囲まれたような伊豆多賀駅。南欧風の木造駅舎が階段の上にある。特急は頻繁に通過するが、普通列車しか停まらない。写真/杉崎行恭

高台の無人駅から望む、桜の花越しの相模灘
伊豆多賀駅|静岡県・JR伊東線

高台にある駅の改札口を出ると、視界が桜に埋め尽くされる。ヨーロッパのコテージを思わせる駅舎から階段を下ると、桜の風景が映画の場面のように見えてくる。ここ伊豆半島の伊豆多賀駅の駅前にはソメイヨシノの古木が集まり、春のシーズンを迎えると駅舎の広場を埋め尽くすように咲き誇る。駅の標高は52mで、小枝の先に相模湾も遠望できる。

立体感のある桜と海の風景

駅前の商店で聞くと「桜はずっと昔からあった」という。おそらく開業時の昭和10年(1935)に植えられたのかもしれない。伊東線が計画されたのは戦前の観光黄金時代で、鉄道省の方針で外国人観光客の招致も視野に入れ各駅舎に南欧風のデザインが導入された。そんな古き香りを残す駅から海岸に下る道も「桜坂」といい、辻々に桜が植えられている。

JR伊東線には特急「サフィール踊り子」や「踊り子」をはじめ伊豆急行の列車も走る。伊豆多賀駅は急斜面にあるため桜と列車の撮影に適したポイントも多い。また駅から網代駅方向には遊歩道「四季の道」も整備され、相模湾の絶景も楽しめる。

高低差のある地形がつくり出す雰囲気が、桜の存在感を特別なものにしている。温暖な地域なので桜の開花も一足早い。写真/杉崎行恭

桜の木は駅前に集中している。駅から海岸までは急坂を下って10分ほど。駅の周囲にはこの地特産のみかん園が広がる。

案内人
杉崎行恭(すぎざきゆきやす)さん
(駅旅ライター・69歳)

昭和29年、兵庫県生まれ。写真家、フリーライター。旅行雑誌を中心に活躍。鉄道全般に造詣が深く、駅と駅舎の専門家としても知られる。著書に『百駅停車』(新潮社)、『あの駅の姿には、わけがある』(交通新聞社)など多数。
※杉崎のさきはただしくは「たつさき」。

※杉崎のさきはただしくは「たつさき」。

※この記事は『サライ』2023年4月号より転載しました。

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