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デビュー以来半世紀近く、休むことなく話題作に出演する俳優・大竹しのぶさん。観客の手を握り、舞台の世界にグッと引き込むような吸引力に魅了された人は数知れず。そんな大竹さんの最新作は、4月から東京公演がスタートするミュージカル『GYPSY(ジプシー)』。描かれるのは、2人の娘をスターに育てようと、困難をものともせずに突き進む、究極のステージママ・ローズの奮闘を描く夢と努力の物語。ブロードウェイで1959年に初演されてから半世紀以上、再演が繰り返されている名作です。今回、公演を控え、舞台稽古に励む大竹さんに役柄の魅力や公演への意気込み、そして演じるローズと同じく子を持つ母としてのプライベートについてお話を伺いました。インタビュー記事は、2回にわけてお送りします。1回目は32年ぶりに公演されるミュージカルの名作『GYPSY』について。2回目では、プライベートのお話を中心に紹介していきます。

念願のローズ役。チーム一丸となって挑む夢だった舞台

日本では32年ぶりに上演される『GIPSY』。大竹さんが演じるローズは、後に「バーレスクの女王」と称され、伝説のストリッパーとなるジプシー・ローズ・リーの母。かなり強烈な個性の持ち主であり、パワフルな女性です。

大竹さん「1991年に鳳蘭さんと宮沢りえちゃんが演じる舞台をたまたま観ており、“私もいつか出演できたらいいな”とは思い続けていました。ですから今回、ローズを演じるという私の長年の夢が叶ってうれしい。作中歌の『Some People』という曲もときどき聞いたり、動画を観たりしていたのです」(以下「」内・大竹さん)

インタビュー当時は、絶賛稽古中。ローズの長女で、後にジプシー・ローズ・リーになるルイーズを演じる元乃木坂46の生田絵梨花さんも取材現場に来てくださいました。その様子は大竹さんのInstagramにも紹介されています。

「今、一丸となって知恵を出し合って作品を作り上げています。というのも、英語の作品を、日本語で表現するのですから、言葉によってニュアンスが異なる部分があります。作品の魅力を届けるために、スタッフ、出演者が全員で模索をしているところです。個人的な課題は、歌ですね。ミュージカルは歌がセリフでもあるので、さまざまな技術が必要だと感じています。稽古の日を重ねるごとに、歌をどうにかしなくては……と思う気持ちが強くなっていき、今は猛練習中。見終わった後、お客さんが立ち上がって“うわー”と叫びたくなるような、そして、“頑張るぜ!”と元気になる作品に仕上げていきます」

俳優は、スタッフ全員の夢を形にするアンカー的存在

ショービジネスの世界に生き、旅から旅へと生活するローズは、大竹さんと重なる部分もあります。

「そうですね。地方公演も多く、それぞれの地域の劇場に行くことを楽しみにしています。劇場はその存在そのものから、そしてお客様からもたくさんのエネルギーをいただけるのです。私自身が、最初に地方に行ったのは、17歳のとき。九州での映画ロケでした。父が東京駅まで送ってきてくれたのです。そのとき、父はまっすぐ前を見て、“自分をちゃんとしっかり持って、頑張ってきなさい”と言ってくれました。今思うと、とても心配だったんだろうな、と。実際にこの仕事を続けていると、父のそのときの言葉が胸にしみます。華やかな世界と言われることもありますが、実際に地道に頑張ることしかできず、正解がない仕事です。誰もが毎日ちょっとずつ、ちょっとずつ良くなるように努力を重ねることしかできないことを改めて感じます」

大竹さんが最初の現場で感じたのは、みんなが一生懸命で、男の人が汗水たらして働いている場所だということ。

「当時、スタッフさんのほとんどが男性で、汗とほこりだらけになりながら、セットを組んだり、照明や音響の作業をしていました。若い頃は自分の出番がなくても、撮影現場に足を運んでいました。そのたびに、スタッフの皆さんがワンカットに込める思いを間近で感じていたのです。それから50年近く、時代は変わっても、スタッフも俳優もみんな一生懸命であることは変わりがありません」

ある物語があり、それを伝えたいという人がいて、そのために多くの人が集まって、作品を作り上げていく。俳優はその作品を観客に届け、全員の夢を形にするアンカー的な存在なのかもしれません。ローズは自分の夢を娘たちに託します。

「我が子をビックスターにするために、わき目もふらずに夢中になるローズは魅力的な人だと思いますが、実際に自分の母親だったら、そこから逃げたくなるでしょう(笑)。ただ、私自身が子どもを育てた経験があるから、その大変さに共感する部分はあります。子育ては“なんでこんなに一生懸命やっているのにわかってくれないの?”と思うことばかりですから。ただ、私自身が、ローズのように何かに夢中になったことはないんです。10代からこの仕事をしていましたから、夢中になる時間がなかったんですね」

何でも言い合える関係性の中で、互いに成長できるのが舞台の魅力

大竹さんは2人の子どもを産み、母としての顔もあります。

「そうなんです。だから役に没入することもありません。仕事が終われば、家に帰って子どもの世話をしたり、家事をするので、俳優としてのスイッチが強制的に切れる。ただ、舞台は1か月以上稽古があり、長期間の上演が続くことが、映像作品とは異なります」

大竹さんは、「舞台は、共演者と家族よりも長い時間を過ごします。何でも言い合える関係を作りやすいです」と続けます。このとき、後進にアドバイスをすることもあるそう。

「何年か前、若手の俳優が、演出家さんからかなりきついことを言われて、稽古場の隅で膝を抱えていたことがあったんです。しばらく見守ってから、“あのとき、言ってもらえて良かったね”と言葉をかけたら、顔を上げて“本当にそう思います。あのとき言われたから、私に未来が広がった”と。その翌日からは、その人はがらりと変わりました。第一声から違うのです。そして、本番を迎えると、どんどんよくなっていく。舞台の魅力はこういうところにあるとも思います」

年齢と経験を重ねたからこそ、その言葉は相手の心に響く。

「お互いを理解し、仲間だからこそ言えるのです。私自身もいい先輩に囲まれ、そのようにして育てていただきました。今、『GYPSY』もみんなで作り上げています。ぜひ、みなさんも劇場に来て、元気になってほしいと思っています」

第2回の記事では、大竹さんのプライベートや生き生きとした人生を送る秘訣を伺っていきます。

大竹 しのぶ(おおたけ・しのぶ)
1957年東京都生まれ。1974年、テレビドラマ『ボクは女学生』に出演し注目を集める。1975年、映画『青春の門 -筑豊編-』のヒロイン役で本格的にデビュー。同年、NHK連続ドラマ小説『水色の時』に出演し全国的な存在に。以降、映画、舞台、テレビドラマ、CMほか多数の作品に出演。近作に映画『ヘルドッグス』、舞台『女の一生』、テレビドラマ『PICU 小児集中治療室』などがある。歌手として紅白歌合戦に出演、エッセイストとしても活躍。紫綬褒章、読売演劇大賞最優秀女優賞ほか受賞多数。Instagram(@shinobu717_official)。

〈作品DATA〉

Musical『GYPSY』
ミュージカル『GYPSY』が2023年4月9日(日)から4月30日(日)まで、東京芸術劇場プレイハウスにて上演され、その後、大阪、愛知、福岡公演が実施されます。大竹しのぶさん、生田絵梨花さんらが出演し、演出はクリストファー・ラスコム氏が務めます。

本作は、かつて実在したストリッパーのジプシー・ローズ・リーの回顧録をもとに制作。“究極のショー・ビジネス・マザー”の代名詞となった母ローズに焦点を当て、舞台で活躍する2人の娘を育てたローズを追うと共に、煌びやかなショービジネスの苦難を愛情たっぷりに描いています。

初演で“ブロードウェイの女王”と呼ばれたエセル・マーマンが主役のローズを演じて以降、各時代で活躍する名女優が演じ続け、1990年トニー賞・ベストリバイバル、2016年ローレンス・オリヴィエ賞・ベストリバイバルを受賞するなど、初演から半世紀たった今でも世界中で愛されている作品です。

■公演概要
ミュージカル『GYPSY』
作詞:スティーヴン・ソンドハイム
作曲:ジュール・スタイン
脚本:アーサー・ローレンツ
演出:クリストファー・ラスコム
翻訳・訳詞:高橋亜子
出演:
大竹しのぶ 生田絵梨花 熊谷彩春 佐々木大光(7 MEN 侍/ジャニーズ Jr.) 今井清隆

鳥居かほり 麻生かほ里 咲良
石田圭祐 泉拓真 安福毅

出津玲奈 岩崎ルリ子 江村美咲 砂塚健斗 高瀬育海 山田裕美子 横田剛基

スウィング:植村理乃 安井聡

大久保実生 久住星空 古閑暁奈 酒井希愛 中村環菜 三浦あかり
入内島悠平 占部智輝 黒岩竜乃介 櫻井碧人 立花優愛 鳴海竜明 前田晴秋 涌澤昊生

公式サイト:https://gypsy2023.com/

■東京公演
上演期間:2023年4月9日(日)~4月30日(日)
会場:東京芸術劇場プレイハウス
住所:東京都豊島区西池袋1-8-1
チケット発売日:発売中
チケット料金:S席 14,500円、A席 11,500円

■大阪公演
上演期間:5月4日(木・祝)~5月7日(日)
会場:森ノ宮ピロティホール
住所:大阪府大阪市中央区森ノ宮中央1-17-5

■愛知公演
上演期間:5月12日(金)~5月14日(日)
会場:刈谷市総合文化センター アイリス 大ホール
住所:愛知県刈谷市若松町2-104

■福岡公演
上演期間:5月19日(金)~5月21日(日)
会場:キャナルシティ劇場
住所:福岡県福岡市博多区住吉1-2-1 キャナルシティ博多ノースビル4F

取材・文/前川亜紀 撮影/黒石あみ(小学館) ヘアメイク/新井克英 スタイリスト/申谷弘美 

 

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