取材・文/坂口鈴香
中澤真理さん(仮名・56)の叔父は妻が急死し、一人で身の回りのことができなくなった。中澤さんはアメリカに住む従姉妹と、叔父のホーム選びや入居手続きなどに奔走した。
(「コロナ禍で弱った両親。叔母の急死で状況が一変した【シングル一人娘の遠距離介護】」https://serai.jp/living/1108273)
その従姉妹は、叔父夫婦の一人娘だが、叔父から国際結婚を反対されて絶縁状態になり、実家には20年以上戻っていなかった。そのうえアメリカに家族がいて仕事もしているため、父親の介護にかかわることは難しかったのだ。
従姉妹が日本に滞在しているわずか2週間の間に、ホームを選び即決したものの、ホームへの引っ越しや自宅マンションの処分などの問題が残っていた。そこで中澤さんが依頼したのが、地域包括支援センターから紹介された団体「A社」だった。この団体は、成年後見人だけでなく、マンションの処分やホームへの引っ越し、叔母の納骨までも引き受けてくれた。さらに、今後叔父の介護度が重くなって、今のホームから転居しないといけなくなることがあれば、転居先探しなどまでやってくれるという。
この団体に依頼したおかげで、中澤さんの負担はかなり減ったのだが、この団体はどういう団体なのか、もし一人暮らしで頼れる親族などがいないと、ホームに入居するのが難しくなるのか、という疑問を抱いた方もいるのではないだろうか。
そこで、今回は頼れる親族などがいない「おひとりさま高齢者」が、ホームに入るときにどうするかについて考えてみたい。
ホーム入居時に求められる「身元保証人」
ホームに入居するときに、おひとりさまが直面するのが「身元保証人」だ。多くのホームでは「身元保証人」をたてることを求めている。
身元保証人は、入居者の体調が悪くなったり、ケガや事故が起きたりしたときなどの緊急時の連絡先となったり、ホーム費用の支払いが滞るなどしたときの補償をしたりする。ほかにも、入院時に治療方針を確認し判断する、亡くなったときの手続きをするなどの役割がある。治療方針などは、本人ができれば問題ないが、認知症などになって本人の意思が確認できない場合には身元保証人が行うことになる。
これらは、通常親族がいれば親族が行うことになるが、配偶者や高齢の親族は認められないこともあるので注意が必要だ。
では、この親族がいない、あるいはいても頼れない、頼りたくない場合はどうするか。中澤さんの叔父も利用している「成年後見人」にお願いするというのが第一の方法だ。
成年後見人は身元保証人になれるか
成年後見人制度は、
認知症、知的障害、精神障害などによって、判断する能力が欠けているのが通常の状態の方について、申立てによって、家庭裁判所が「後見開始の審判」をして、本人を援助する人として成年後見人を選任する制度です。成年後見人は、後見開始の審判を受けた本人に代わって契約を結んだり、本人の契約を取り消したりすることができます。(※1)
成年後見人とは、
成年後見人の役割は、本人の意思を尊重し、かつ本人の心身の状態や生活状況に配慮しながら、必要な代理行為を行うとともに、本人の財産を適正に管理していくことです。
具体的には、(1)本人のために診療・介護・福祉サービスなどの利用契約を結ぶこと、(2)本人の預貯金の出し入れや不動産の管理などを行うことが主な仕事となります。(※2)
(※1、※2:裁判所HPより引用 https://www.courts.go.jp/saiban/qa/qa_kazi/index.html#qa_kazi53)
弁護士の稲津高大さんは、成年後見人が身元保証人になることに対して、次のように指摘する。
「本人が老人ホームに入居する際や病院に入院する際に、ホームや病院から成年後見人に保証人になってくれと頼まれることがあります。しかし成年後見人は、法律上本人の身元保証人になる義務はありませんし、本人と利益相反になるおそれがあるため、身元保証人になることができません。本人が存命中には、成年後見人が管理している本人の預貯金からホームの入所費用や入院費用を支払うことができますが、本人が亡くなると同時に後見人の任務が終了するので、その後の費用を支払えません。一方で成年後見人が早期に就任していれば、本人のホームの入所費用や入院費用の支払いに適正に対応するはずですので、入所費用等が滞納していることは想定されません。したがって、成年後見人が、老人ホームの身元保証人になって、本人が支払えない場合の保証を引受けたり、本人が死亡した場合の遺体の引き取りを行ったりなどはできないのです」
こうしたこともあり、身元保証人が成年後見人では不可というホームもあるので、事前に確認してほしい。なお死後の事務手続きについて、地域によっては自治体や社会福祉協議会などが支援している場合があるので、自治体のサービスを調べてみることをおすすめする。
【後編に続きます】
取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。