取材・文/坂口鈴香

沢村寛之さん(仮名・60)の母、恒子さん(仮名・86)は、レビー小体型認知症によってせん妄を繰り返した。入院先で拘束され、急激に状態が悪化したのを心配した沢村さんは、恒子さんを認知症専門病院に転院させた。

【前編はこちら

芽生えた病院への不信感

その後、恒子さんはどうしているだろうか。沢村さんに話を伺うと、顔色はさえなかった。

「コロナ禍なのは変わらないので、今の病院でも転院して以降一度も会えていません。オンラインでの面会はできるのですが、自宅から1時間以上かかる病院の1階まで行かないとならず、時間も10分と制限されています。もう3か月以上会えていないのに、たった10分では私が息子であることを認識できるかもわかりません。それでは面会をする意味もないだろうと、足を運べないでいます。担当医からは、母の状況の説明も一切ありません」

かくして沢村さんは、再び母親をこの病院からも出した方がよいのではないかと考えるようになっているという。

病院への不満は、母親の状況説明がまったくないことに対してだけではない。病院からの請求に不信感を抱くようになったからだ。入院費のうち実費として、毎月多額の請求が来るという。

1日2000円もの「入院セット」とは?

「明細には、紙おむつ〇枚とかありますが、以前病院からは『トイレには職員がついて一緒に行っている』と言われました。だからなぜそんなにたくさんの紙おむつを使っているのか不可解です。一番わからないのが、『入院セット』という名目の費用です。それが1日約2000円、月に6万円近くの請求が来るんです。内訳の記載もないので、何のお金かも、その単価もわかりません。タオルやパジャマ、肌着は母のものを持って行っていますし、洗濯代だけでこんなにかかるはずがありません。何だろうと思って問い合わせたら『沢村さんご自身が申し込まれていますよ』という答えでした。入院手続きをするときに次々に書類にサインさせられたので記憶にありませんでしたが、調べてみると確かに『入院セット申込書』というのにサインはしていました。病院とは別会社と契約していることになっていましたが、その内訳について説明された記憶はありませんし、申込書にも内容の記載はありませんでした」

沢村さんは病院を通して、その会社に何度も説明を求めた。明細がほしい、洗濯代金なのだとしたら何回洗濯したのか、ほかには何に使ったら1日2000円もかかるのか……何度問い合わせても、回答は来なかった。

「母は、1日中パジャマを着たまま病室で寝かせられているだけでしょう。アクティビティに参加するわけでも、外出するわけでもない。そんな高齢の母がどうして月6万円も使うのか。高級タオルを毎日使い捨てているとでもいうのでしょうか。社会通念上、この金額が納得できるものなのかを知りたいと言っているだけなのに、何か月も無視されています」

ほかの患者家族は黙って払っているのだろうか。沢村さんは不思議でならない。何らかの回答が来るまでは、問い合わせを続けるつもりだ。ただコロナ禍で、看護師などはがんばってやってくれているので、病院を巻き込むことになるのは心苦しいという。

恒子さんとは別の病院だが、親がリハビリ病院に入院しているという男性も、入院時に「入院セット」を申し込んだという。寝巻、肌着、洗面など何種類かのセットがあり、必要に応じて選ぶことができた。さらに、「このセットは医療保険の対象ではない」との説明も受けており、この病院は丁寧な説明を意識して、契約書や同意書の作成を行っていると感じたと振り返る。また、入院セットは途中で不要になれば解約もできるので、親の回復度合いに応じてセットを解約して自宅から持参するつもりだ。男性は沢村さんの話を聞いて、こんな感想を伝えてくれた。

「入院する本人や家族は不安が大きく、契約書や同意書についての事務的な説明をまどろっこしく思いがちですが、あとで思い起こすと結構重要なことだったりしますし、わからないことが出てくるのも当然だと思います。だからこそ、それらの疑問についてあとからでもきちんと説明してくれる病院であってほしいものです」

沢村さんの言い分に対して、病院側も反論はあるだろう。沢村さんに記憶はなくても、入院セットの説明はしていたのかもしれない。それでも何度問い合わせても一切返答がないというのは解せない。前編(https://serai.jp/living/1092785)でケアマネジャーが指摘したように、コロナ禍で病院のブラックホール化が進むなか、沢村さんの不信感が増すのも無理はないと思う。それが、恒子さんの療養環境に影響することがあれば何より不幸なことではないだろうか。

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

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