資産をどう築き その価値をいかに守るか
「人生100年時代」を豊かに生きるためにも、お金の不安は払拭しておきたい。その有効な手段のひとつとされるのが投資だ。目先の損得勘定にとらわれず、長期的な視点での実践を考えたい。
【第2講】貯蓄と投資の違いを知る
「物価が継続的に上昇していけば投資の必要性はさらに高まります」
よく、「日本人は貯蓄好き」といわれる。この説を裏付けるデータがある。日銀の「資金循環統計」(2022年4-6月期)によると、家計が保有する金融資産残高は2007兆円で、そのうち、現金・預金は1102兆円と5割以上を占めている。
例えば、米国の家計の場合、金融資産に占める現金・預金の割合は約13%(2021年末時点)に過ぎない。主要国と比べても、家計の金融資産に占める現金・預金の割合は、日本が突出して高い。
ただし、背景に合理的な理由もある。日本経済は、長らくデフレ状態に置かれていたからだ。デフレ経済では物価は下落傾向にある。お金を金利がゼロに近い銀行預金で保有していても困ることがない。利息がまったく付かない、「タンス預金」でも構わなかったのだ。
預金はインフレで目減りする
ところが、物価が上昇するインフレ局面になると、状況は変わる。
「物価が継続的に上昇していくと、現在の金利では、預金の実質的な価値が目減りすることになります。長期になればなるほど不利は拡大します」(ファイナンシャルプランナー 井戸美枝さん。以下同)
仮に物価上昇率2%とすると、100万円の物は1年後には102万円になる。5年間続くと、110万4080円になる計算だ。しかし、大手銀行の普通預金の金利は現状0.001%で、100万円預けても1年間の利息は税引き前で10円、5年間の合計でも50円にしかならない。物価が上昇する間は、現金・預金の価値は目減りし続けることになる。
このため、老後資金を預金だけで保有していると、将来の生活はかなり窮屈になってしまう可能性がある。
「過去70年間で日本人の平均寿命は30歳以上延びました。女性のふたりにひとりは90歳まで生きます。こうした長寿化の進行で、医療や介護を受ける人がますます増えました。一方、少子高齢化により国の社会保障の力は弱くなっていきます。そこに円安なども加わり、物価が上昇する経済状況となれば、老後資金は自分で準備する、つまり、投資をする必要性は一層高まっているといえるでしょう」
投資は中長期が前提
一般的に、貯蓄とは「お金を蓄える」ことであり、銀行の預金などが該当する。一方、投資とは、利益を期待して金融商品を購入することで、株式や投資信託、債券などが該当する。
貯蓄の最大の特徴は、預けたお金が減ることのない「元本保証」があること。生活費などすぐに必要となるお金は、銀行預金のようにすぐに引き出せて、減ることがない貯蓄として持っておくことが大事になる。
それに対して、投資は老後資金など将来のためにお金を増やすことを目的とする。株式や投資信託に元本保証はないが、その分、価格の値上がりや利益の分配を通じて、預貯金よりも大きな利益を得られる可能性がある。
また、投資対象となる金融商品によって、得られる利益と失う損失の大きさが変わってくる点も特徴となる。この金融商品の利益と損失の変動幅のことを「リスク」と呼ぶ。
「金融商品のリスクは、投資をする期間が長期化するほど減少することが知られています。つまり、老後資金の投資は中長期投資を前提とすべきです」
早く始めれば始めるほど、投資期間は長くなり、その分、リスクも軽減されるというわけだ。
※この記事は『サライ』2023年1月号より転載しました。