日に日に増す寒さが、冬を実感させてくれます。しかし、単に「冬」といっても時期によってその様相は様々です。紅葉が終わり、葉が落ち、枯れ木となる季節。雪が降り始めたと思えば、降り積もった雪が一面を白くする季節。あっという間に日が沈み、冷たい風が吹く長い夜になる季節……こうした冬が見せる様々な顔を感じ取り、寒さの移り変わりを捉えてきたのが二十四節気です。
古来より日本人は二十四節気を定め、「冬」をいくつかに区別してきました。寒さの中でも月日の移ろいを感じ取ってきたのです。季節の変化を感じづらくなった今だからこそ、二十四節気を軸にすることで、季節を愛でる機会を持つことができるのではないでしょうか。
さて今回は、旧暦の第23番目の節気「小寒(しょうかん)」について下鴨神社京都学問所研究員である新木直安氏に紐解いていただきました。
目次
小寒とは?
小寒の行事や過ごし方とは?
小寒に旬を迎える食べ物
小寒の季節の花とは
まとめ
小寒とは?
「小寒」とは、1月前半から1月後半にあたる二十四節気の一つです。「小寒」の日は、俗に「寒の入り」と呼ばれ、この日から「寒明け(節分)」までの約30日間を「寒の内(うち)」と言います。「寒の内」は一年中でもっとも寒さの厳しい季節です。「小寒」は、字の上では「“寒”さがまだ“小”さい」と書きますが、本格的な寒さに向かう時期ですので気温は十分に低くなります。
二十四節気は毎年日付が異なりますが、小寒は例年1月6日〜1月19日になります。2023年の小寒は、1月6日(金)です。また期間としては、次の二十四節気の「大寒」を迎える、1月20日頃までが該当します。2023年は1月6日(金)〜1月19日(木)が小寒の期間です。
寒に入って4日目を「寒四郎(かんしろう)」、9日目を「寒九(かんく)」と呼び、冬の季語とされています。ここから「大寒」に向かってますます寒さは厳しさを増していきますが、1月7日の七草がゆ、1月15日の小正月など、伝統ある行事が続く日々です。
小寒の行事や過ごし方とは?
正月7日には、春の七草を入れて炊く粥「七草がゆ」が食べられます。セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロの「春の七草」を食べ、無病息災を祈るのです。ちなみに現代では、お正月のごちそうで疲れた胃腸を休ませるという意味合いも含んでいます。
1月10日には近畿以西の神社で「十日戎(とおかえびす)」が行われます。商いの神様である恵比須様に向こう一年の商売繁盛を祈願する日です。大阪の今宮戎神社、兵庫の西宮神社、京都の恵美須(えびす)神社など、主に上方の恵比須神社で開催。境内では鯛や小判、米俵などの縁起物を吊るした「福笹(ふくざさ)」が売られます。
そして、正月11日になると「鏡開き」を行います。鏡餅を下ろし、雑煮やおしるこにして食べる行事です。硬くなった餅は包丁が入らないため、手や槌(つち)で割って調理することもしばしば。「鏡開き」という名前は、「切る」「割る」といった縁起が悪い言葉を避けて、運気の開ける「開く」に言い換えたものだと考えられています。
京都では小正月(1月15日)に「小豆粥(米に小豆を加えて炊いた粥)」を食べる習慣があり、下鴨神社では「御粥祭」が斎行されます。本来は「御戸開神事」(みとびらきしんじ)と言い、東西御本殿の御戸扉を新年初めて開き、御内陣に神饌をお供えする神事を指します。そこでは、「粥」と呼ばれる「白米・赤米」がお供えされます。
小寒に旬を迎える食べ物
小寒の時期に旬を迎える京菓子、野菜・果物、魚をご紹介します。
京菓子
年齢の「齢」は歯偏であるように、歯は「齢」の意味を持ちます。このことから、古来中国では、歯が丈夫であることは長寿の源であると考えられていました。
この考えが日本に伝わり、「お正月には固いものを食べて歯を丈夫にし、長寿を祈る」という風習が生まれました。これを「歯固(はがため)」といい、宮中では平安時代以降、歯固膳が供されました。大根・瓜串刺・猪肉など、当時のご馳走で歯ごたえのあるものが並べられたそうです。
それが江戸時代になると、「三ツ肴」(黒豆・数の子・叩き牛蒡)と「こぶあわ」(昆布と熨斗鮑)が供されるようになり、大幅に簡略化されます。そこに新たに加わったのが「菱葩(ひしはなびら)」です。
菱葩は、薄く丸い白餅の上に薄い紅色の菱餅を置き、牛蒡をのせて白味噌をかけたもので、宮中で食されていました。この「菱葩(ひしはなびら)」を応用した生菓子があると言います。下鴨神社に神饌などを納める「宝泉堂」の社長・古田泰久さんに、詳しいお話をお聞きしました。
「当店(茶寮宝泉)では、お正月から小寒の時期にかけて生菓子『花びら餅』を提供いたします。この『花びら餅』には、逸話がありますので、ご紹介しましょう。
幕末、宮中で献茶を行った茶道・裏千家家元十一世玄々斎(げんげんさい)は、菱葩を賜りました。その時、この菱葩を新年の初釜のお菓子に応用することが許され、それ以降京都の菓子屋の間で広まったのです。今では、『花びら餅』としてお正月のお菓子の定番になっております。
『茶寮宝泉』の『花びら餅』は、餅粉に砂糖を少しずつ入れながら炊き上げた羽二重餅を手早く伸ばし、その上に紅色に染めた菱形の薄い生地を重ねます。炊いてから蜜漬けにした牛蒡(ごぼう)と白味噌の餡を入れて、二つ折りにします。甘く煮た牛蒡と味噌餡をふっくらとした紅白の餅で包んだ、素朴な菓子です。
味噌餡とふっくらとした餅が、柔らかく調和するように仕上げています。そうした中で、牛蒡の食感がアクセントになります。
迎春をお祝いする花びら餅をお召し上がりいただいて、新しい年の喜びを感じていただけたら幸いです」と古田氏。
野菜・果物
小寒に旬を迎える野菜は、かぶです。「かぶら」や「すずな」とも呼ばれ、「春の七草」の一つでもあります。根の形は、球形や大根形、勾玉(まがたま)形など様々で、色や大きさの違うたくさんの品種が生み出されました。根は生食や漬け物だけでなく、焼く・煮ることで食感や甘味が変化して、違った味を楽しめます。そして葉はアクが少なく使いやすいため、浅漬けや煮びたし、炒め物など、その活用法は様々です。
また、小寒の頃に美味しい果物は、金柑(きんかん)です。熟すと、黄橙色の小粒の実をつけるかんきつ類です。実は甘みと酸味、ほのかな苦みを持ち合わせており、皮ごと食べる生食や、砂糖漬けにして食されます。金柑の甘露煮は、正月のおせち料理の定番です。
魚
小寒の頃に美味しい魚は、河豚(ふぐ)です。肝などに猛毒のテトロドトキシンがあるため、調理が難しい高級魚。その身は、脂肪の含有量が少ないため淡泊で、締まっています。てっさ(ふぐの刺身)やてっちり(ふぐ鍋)にする食べ方が一般的です。刺身では、ふぐの身を、盛り付ける皿の模様が透けて見えるくらいごく薄く切ります。というのも、ふぐの肉には弾力があり、厚く切るとかみ切りにくいからです。
小寒の季節の花とは
小寒、つまり毎年1月6日〜1月19日頃は非常に寒さの厳しい時期です。ここからは、そんな小寒の訪れを感じさせてくれる植物をいくつかご紹介しましょう。
小寒の季節に咲く花といえば、蠟梅(ろうばい)です。語源は、蝋月(=12月)に花を開き、その香が梅に似ているところに由来する説や、梅の咲く頃に色が蜜蝋(みつろう)に似た花をつける点に由来する説などがあります。ロウバイ科の落葉低木で、高さは2~3メートルほど。卵形の葉をつけ、花は半透明の黄色をしています。1、2月ごろ、葉より先に香りのある花を開かせるのが特徴です。
また、この頃には、金のなる木(かねのなるき)が花をつけます。乾燥や低温などの厳しい環境に適応する丈夫な、多肉植物です。一風変わった「金のなる木」という名前は、葉が円形で硬貨に似ることに由来すると考えられています。晩秋から冬にかけて、白や淡いピンクの可憐な花を咲かせます。
まとめ
寒さが極まる少し手前、これから本格的な寒さを迎える「小寒」。冬の澄み切った空気が漂い、夜空の星が美しく輝く光景が見られます。また、新年の始まりにあたるこの時期は、古くから年中行事が多く、人々が集う時期です。現代まで受け継がれる日本の慣習や文化を通じて、日本の良さを再確認できる季節かもしれません。
監修/新木直安(下鴨神社京都学問所研究員) HP:https://www.shimogamo-jinja.or.jp
協力/宝泉堂 古田三哉子 HP:https://housendo.com
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構成/トヨダリコ(京都メディアライン)HP:https://kyotomedialine.com Facebook