子どもの言葉が荒くなった、口をきいてくれなくなった、暴力をふるわれたなど、大人への移行期である思春期の子どもの心は不安定で、突然の変化に戸惑う親は多いと言われています。そこで、福岡県北九州市の「土井ホーム」で心に傷を抱えた子どもたちと暮らしながら、社会へと自立させてきた、日本でただひとりの「治療的里親」である土井髙徳さんの著書『思春期の子に、本当に手を焼いたときの処方箋33』から、どんな子どもにも効く思春期の子育てのコツを学びましょう。
文/土井髙徳
ダメにする10の言葉と叱り方
子どもがかわいくない親はいません。しかし、親だからといってどんな言葉でも子どもが心から受け入れてくれるとはかぎりません。つい何気なく、親が感情のままに発した言葉が子どもの心を傷つけ、その後の子どもの人生に大きな影響を与えることも少なくありません。
うつや不安障がいの人が陥りがちな否定的な思考パターンの根底には「私は無力で役立たずだ」と「私は愛される資格がない」のふたつの固い思い込みがあります。こうした人は「私は~をうまくやりさえすれば、愛されるかもしれない」と学業や部活動など目の前の課題に強迫的なほど全力を尽くします。ところがそれが挫折すると、周囲からすればほんのささいな失敗をしただけなのに「やっぱりダメだ、私は愛される資格がない」と思い込んで、否定的な思考のループに陥ってしまいます。
こうした自己否定的な信念の根っこには、どの親もよく使う「無自覚な叱り方」があることが少なくありません。子どもをダメにする10の言葉と叱り方を具体的に挙げてみましょう。身に覚えはありませんか?
1.口汚く責める
「靴をそろえて家にあがりなさいと何度言ったらわかるの。どうして、いつもそうなの。言うことを全然聞かないんだから」
2.バカにする
「部屋が汚いじゃないの。本当に犬と同じね」「また忘れたの? バカねー」
3.脅す
「10数えるまでに着替えられなかったら、置いていくからね」
4.一方的に命令する
「今すぐ着替えなさい。早くして!」
5.説教が長い
「人の手から急にリモコンを取るなんて、行儀悪い。あなたはマナーというものがどんなに大事かわかっていません。もし他人に丁寧に接してほしかったら、まずあなたがそうするべきでしょ。他人があなたに同じことをしたらどう思う? 他人にしてほしくないことは、あなた自身がしないの」
6.過剰に警告する
「気をつけて、車にひかれるよ」
7.親が被害者のふりをする
「この白髪を見なさい。苦労ばっかりかけるから真っ白になっちゃったじゃない。自分が親になれば、お父さんがどんなに大変かわかるよ」
8.ほかの子と比較する
「○○ちゃんを見てごらん。なんてお行儀がいいんでしょう。お行儀が悪いところを見たことがない」
9.皮肉を言う
「来週テストがあるのをわかっているのに、教科書を学校に忘れてきたの? なんて頭がいいんでしょう」
10.ネガティブな予言をする
「親の言うことを聞かないなら結構。あなたみたいな子には友達がひとりもいなくなっちゃうからね」
このように日常よく使う叱り方であっても、自分自身が同じように叱られたら自分の自尊心や自信、安心感がどれほど傷つくでしょう。そんな想像をときどきしてみることが、子育て中のみなさんには必要ですね。
【一口メモ】
ここで紹介した叱り方を「心理的虐待」といいます。「虐待」といわれると驚くかもしれませんが、子どもの心を委縮させ、伸びやかな心身の成長を阻害する「無自覚な叱り方」と「虐待」との違いは、さほどありません。
否定的な養育環境で育ち、自尊感情が低いと、ささいな出来事で激高するなど極端な言動などに走ってしまいがちです。その結果、子どもの人生にも同様の事象が起こります。こうした親子間にみられる繰り返しを「虐待の世代間連鎖」といいます。ペアレントトレーニングではこうした自分の日ごろの養育態度を振り返り、自覚することから始まります。それは同時に自分自身の人生を振り返って整理することでもあるのです。
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『思春期の子に、本当に手を焼いたときの処方箋33』(土井髙德 著)
小学館
土井髙德(どい・たかのり)
1954年、福岡県北九州市生まれ。里親。「土井ホーム」代表。保護司。学術博士。福岡県青少年育成課講師。北九州市立大学大学院非常勤講師。心に傷を抱えた子どもを養育する「土井ホーム」を運営。医師や臨床心理士など専門家と連携し、国内では唯一の「治療的里親」として処遇困難な子どものケアに取り組んでいる。2008年11月、ソロプチミスト日本財団から社会ボランティア賞を受賞。