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子どもの言葉が荒くなった、口をきいてくれなくなった、暴力をふるわれたなど、大人への移行期である思春期の子どもの心は不安定で、突然の変化に戸惑う親は多いと言われています。そこで、福岡県北九州市の「土井ホーム」で心に傷を抱えた子どもたちと暮らしながら、社会へと自立させてきた、日本でただひとりの「治療的里親」である土井髙徳さんの著書『思春期の子に、本当に手を焼いたときの処方箋33』から、どんな子どもにも効く思春期の子育てのコツを学びましょう。

文/土井髙徳

子どもと向き合う3つの工夫

子どもと向き合うとき、私がいつも心がけていることが3つあります。

1つ目は、声を荒らげないこと。親が声を荒らげると、だいたいの場合子どもも声を荒らげます。言葉はキャッチボールですから、こちらが豪速球で投げれば、向こうも力いっぱい投げ返してくる。柔らかい球を投げればソフトに返してきます。穏やかに話すことは、子どもと向き合う出発点です。

それに、強い言葉を出したからといって、相手の心に入っていくわけではありません。子どもを叱っていて反応が乏しいと、「この子はちゃんと聞いているんだろうか?」と思って、ついつい耳元で怒鳴りたくなりますが、それは逆効果です。

2つ目は、メッセージの出し方です。「△△しちゃダメ」ではなく、「○○しなさい」と肯定的に言ったほうが、子どもには非常に通りがいいですね。

親はよく、子どもに「ちゃんとしなさい」とか「いい子でいてね」と言います。でも子どものほうは、どういう態度がいい子なのかわかりません。

「お客さんの前ではちゃんとしてね」ではなく、「お客さんが来たら、あいさつをして、その後は自分の部屋で静かに本を読んでいてね」というように、肯定的で具体的な指示を簡潔に出してください。

3つ目は、必ずほめて終わること。私はいつも、「最後までよく聞けたね」「がんばったね。ご苦労さん」と声をかけて終わります。子どもの自尊感情を高め、お互いの絆を確かめる言葉かけは、とても大事です。

親が子どもをしつけようとするのは、愛情から出る行為です。でもたとえば、栄養豊富だからといってニンジンを生のまま、丸ごと一本お皿に出されてもうれしくはないでしょう。せん切りにしてサラダにする、グラッセのように甘く煮る。そうやって、少し調理することによって、食べやすくなります。

メッセージも同じで、ストレートに出しても、子どもはそれを受け入れません。「言えばわかるよね」という押しつけでは通じない部分があります。子どもの心を開くには、まずは親がひと工夫してみましょう。家庭は診察室や心理面接室よりも巧みなカウンセリングルームだと私は考えています。言葉は少なくても、必ずどこかに変化が表れます。

私が難しい子どもたちと接するなかで、少しずつ積み上げてきた「臨床の知恵」の基本をお伝えします。

1.目を見て話す

今のお母さんは忙しいので、台所で食事の支度をしながら、子どもに注意することが多いようです。でも、何かをしながら、背中を向けて話すのはダメです。子どものほうもゲームをしたり、テレビを見ていたりするので、返事が上の空になってしまいます。

大事なときには、仕事の手を止めて、子どもと向かい合ってください。そして、子どもの目を見つめながら、「私はこれをあなたに伝えたいのよ」という思いを込めて、丁寧に話してください。そのとき、テレビは必ず消すこと。テレビを見ながらする話は、その程度の話です。

もし、子どもが親の目を見られないとしたら、それは不安感の表れです。わが家に来る子どもたちも最初はそうです。でも、この大人は自分の味方だと思うと、自然に目が合ってきます。

2.穏やかに、近づいて、小声で

穏やかに、子どもに近づいて、小声で話す。これが子どもと話すときの原則です。大声で怒鳴られると、人は自分を守ろうとして、心理的な壁を建ててしまいます。子どもの心の扉を開かせるには、穏やかな語りから入ることが重要です。

3.叱る時間は3分以内

「お叱りの部屋」では、端的に、短く話します。「これから、きみを叱ります」と宣言し、まず、「きみは○○しましたね」と事実確認をします。子どもは否定しますが、「したでしょう。このことに関しては、これで2回、注意しましたよ。わかりましたね」と念を押します。

基本的な注意は3分以内。長くても5分で終わらせます。子どもが集中できる時間は短いので、長く話しても効果はありません。

とくに大事なのは、子どもへの指導とは、感情にまかせて大声で「怒る」ことではないという点です。理性的に自分の感情と声をコントロールしながら愛情をこめて「叱る」ことが求められるのです。

一貫性と継続性のある「物差し」を

子どもを産むと、人は生物的な親になります。出生届を出せば、社会的な親になる。でも、親の大事な役割は、子どもの成長に必要なものを、適切に援助することです。そういう親を「心理的な親」と呼びますが、生物的な親だから、即、心理的な親になれるかというと、そうではありません。

親がイライラした感情を子どもにそのままぶつけてしまうことは、結構あるのではないでしょうか。または怒りにまかせて「あなたなんか、もう知らない」「どこかへ行ってしまいなさい」などと言ってしまう。子どもが「自分は守られている」という安心感を失うことは、広い意味での虐待だと思います。

親のエゴや見栄を子どもに押しつけるのではなく、「あなたの成長を応援しているんだよ」「あなたの確かな成長のために、これは必要なことなんだよ」というメッセージの発信の仕方を、親は勉強すべきだと思います。言葉を変えるなら、子どもが「自分は愛されているんだ」と実感できるような叱り方ですね。

しつけというのは、親の思いどおりに子どもを動かすことではありません。子どもが家族や社会の一員としてその場にふさわしい行動をとれるように、学ばせること。そのためには親自身が自分をコントロールして、行動を通して子どもに学ばせる。その行動の意味も言葉できちんと説明して、子どもがそのとおりにできたら、ほめる。私はその過程をしつけだと考えています。

その際に大事なことは、親が一貫した、そして継続した「物差し」を持っていることです。どれだけ穏やかに話しても、昨日と今日とで親の意見が違ったら、子どもは混乱を起こしてしまいます。

また、メッセージというのは、言葉だけでなく、顔の表情や声の調子など、体全体を通して発しています。

子どもにメッセージを出すとき、言葉では「いいよ」と言いながら、心の中で「先に宿題をしたほうがいいのに」と思っていると、その気持ちが声に出てしまいます。二重のメッセージを出すのは、混乱のもとです。

先に「親子は鏡のようなもの」という話をしましたが、親子の間には相互作用が働きます。子どもが言うことを聞かないから、親は声を荒らげる。親が声を荒らげると、子どもも声を荒らげてくる。関係が悪化してきて、子どもが問題行動を増やす。親はさらに激しく声を荒らげる……。これでは、どんどん悪い方向に行ってしまいます。

一方、プラスの循環は、親が適切な関わり方をすることで、子どもが「親に受け入れられた」と実感でき、子どもの行動が改善される。すると、親も落ち着いてきます。困っている状態を抜け出して、プラスの循環に変えていく。そういう知恵を知っておくことで、親は精神的な余裕を持って、子どもに接することができます。

人は、ついつい理想的な親になろうとがんばってしまいますが、親としてもっとも大事な役割は、子どもが安心して暮らせる環境を整えること。家庭の中の人間関係や生活のリズムをきちんとすることは、子どもの成長にとって、欠かせません。

そのうえで、ある程度大きくなった子どもには、手をかけずに目をかけましょう。「あなたのこと、いつも見ているよ」というメッセージを常に発信していれば、子どもは安心して育っていきます。

* * *

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土井髙德(どい・たかのり)
1954年、福岡県北九州市生まれ。里親。「土井ホーム」代表。保護司。学術博士。福岡県青少年育成課講師。北九州市立大学大学院非常勤講師。心に傷を抱えた子どもを養育する「土井ホーム」を運営。医師や臨床心理士など専門家と連携し、国内では唯一の「治療的里親」として処遇困難な子どものケアに取り組んでいる。2008年11月、ソロプチミスト日本財団から社会ボランティア賞を受賞。

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