子どもの言葉が荒くなった、口をきいてくれなくなった、暴力をふるわれたなど、大人への移行期である思春期の子どもの心は不安定で、突然の変化に戸惑う親は多いと言われています。そこで、福岡県北九州市の「土井ホーム」で心に傷を抱えた子どもたちと暮らしながら、社会へと自立させてきた、日本でただひとりの「治療的里親」である土井髙徳さんの著書『思春期の子に、本当に手を焼いたときの処方箋33』から、どんな子どもにも効く思春期の子育てのコツを学びましょう。
文/土井髙徳
言葉にプラスして目を合わせると、疎通性がよくなる
目は口ほどにものを言う、といいます。人間同士の第一印象は、五感の働きで、たった0.6秒で決まってしまいます。しかもそのうち、視覚による判断が80%も占めています。視線や表情が大切な所以もここにあります。
太古から、人々は目には多くの事実が表れているということを経験的に知っていました。「目は外に出ている脳」だともいわれます。瞳は外部から確認できる唯一の脳神経と直結した臓器だからです。脳から飛び出した部分が、実は目だといわれています。
人は相対する人の心そのものを目で読みます。就職の面接だけでなく、子どもも親の感情を目で読みます。昔から「瞳を見ればすべてがわかる」「目は心の窓」ともいわれてきました。人それぞれに、目には独特の表情と、固有な色と、模様があり「冷たい目」「純粋で優しい目」「邪悪な目」「冴えない目」「疲れ目」「人をひきつける目」「眼力がある」などと言い表してきました。
実際に、隠しごとをしていると目が泳いでしまうことは誰もが体験しているはずです。ウソをついたり、がっかりしていたり、感情の動きはどうしても目に表れてしまいます。目が口ほどにものを言わなくなったら、立派な詐欺師になれるかもしれません。
さて、あなたはお子さんに語りかけているときに、あるいは注意をする際に、お子さんの目を見ていますか。台所仕事をしながら、アイロンをかけながら片手間に言っていませんか。これでは通じません。通じないから声を荒らげたり、繰り返し言うことになり、お子さんに嫌われてしまいます。
子どもに大事なことを伝えるとき、しつけるときには、しっかりと目を合わせて語りかけましょう。テレビのスイッチも切りましょう。大事なことがらであるときにこそ、目を見て、ときには手を取って語りかけましょう。「そんな時間はない」と思うかもしれません。でも毎日片手間に同じことを繰り返していませんか。お子さんに通じていないとしたら少し方向転換をしてみたらいかがでしょう。
何より、人が思いを伝えるコミュニケーションの道具は言葉だけではありません。人は相手の全身からシグナルを受け取っています。とくに、目です。「風呂を洗って」と上から目線で言うのでなく、強力なお願い光線を出すのも効果的です。尖った態度で「ウザイナー」と日ごろ言っているお子さんも、案外うれしいものです。応じてくれたら、最後に必ず言ってください。「うれしかった。ありがとう」と。
【一口メモ】
愛情があれば方法や技術はいらない。確かにそうです。しかし、どんなに栄養価の高いニンジンでも調理をせずに生のまま食べなさいと出しても箸が進みません。愛情に技術が伴えば、より子どもに思いを伝えやすくなるものです。ここでは言葉による意思伝達以外に「言外のコミュニケーション」の重要性を紹介しました。子どもに何かを伝えるときには、いったん手を止めて、言葉にプラスして目を合わせると、一段と疎通性がよくなります。
* * *
『思春期の子に、本当に手を焼いたときの処方箋33』(土井髙德 著)
小学館
土井髙德(どい・たかのり)
1954年、福岡県北九州市生まれ。里親。「土井ホーム」代表。保護司。学術博士。福岡県青少年育成課講師。北九州市立大学大学院非常勤講師。心に傷を抱えた子どもを養育する「土井ホーム」を運営。医師や臨床心理士など専門家と連携し、国内では唯一の「治療的里親」として処遇困難な子どものケアに取り組んでいる。2008年11月、ソロプチミスト日本財団から社会ボランティア賞を受賞。